カクヨムの悪魔

星都ハナス

第1話 悪魔に魂を売れ!

「で、どうする? あと三分だけ待ってやる。やるのか、やらないのか?」


「うるせー、少し黙ってろ!」


 俺が決める事なんだろ、ここまで来たんだ、あと少しなんだ。悪魔にとやかく言われる事じゃねえ! 


「フッ、いいねえ〜、人間の苦しむ顔を見るとゾクゾクする。ヒッヒッ、あと三分だけ静かにしていてやる! 健闘を祈る!」


 悪魔が健闘祈ってどうすんだ! 俺は究極の苛立ちで手にしていたナイフを投げつけた。汗が滴り落ちる。足の震えが止まらない。


───俺は床に落ちたナイフを拾おうと屈み、深く息を吸い込む。




□◼️◼️◼️


 下らない人生だった。三十過ぎの俺は未だに独りで、命を繋ぐ為の飯を食らう。別にいつ死んでもいいような毎日。生きる屍だ。


 ある日、輝きのない瞳で仕事をする俺に女が声をかけてきた。


 下らない女だった。愛だの恋だのほざきながら鬱陶しく絡みつく。そこら辺にいるただの尻軽女と変わらねえじゃないか! 聖母のような女を期待した俺が馬鹿だった。すぐに股を開く女は嫌いだと一発殴ったら消えてくれた。


 下らない夢があった。小説家になって有名になりたいだの、金持ちになりたいだの、承認欲求丸出しの願望。それを満たしたくて、俺はある小説投稿サイトのコンテストに応募した。惨敗の結果に腹を抱えて笑い……そして泣いた。


 どいつもこいつも成功しやがって。お前ら知ってるか? 5ちゃんねるで笑われてる奴もいるんだぞ! 今からそいつらを笑ってやるんだ。


 ビールの空き缶が三本目になる頃、俺は負け犬の遠吠えをし、パソコンのキーボードをきつめに叩く。


 毎晩の儀式を酒の肴にして俺はほくそ笑む。至福の時だ。残虐映画やポルノより中毒性がある。またコイツら叩かれてるな。フン、有名税ってやつか。


 ───しかしその夜は着信メールに目が止まった。


『ユーザーネーム バアル・ゼブブ殿

 貴方はこの度、読者選考には落選しましたが、特別枠に残りました。

 ぜひ、すぐにでも貴方の作品を書籍化したいと考えております。

 詳細は後日、ご連絡致します。        カクヨムの悪魔』


 下らないメールだった。ふざけるのもいい加減にしろ! 俺は気分を害しすぐに電源をオフにした。いたずらか? 何が悪魔だ! ソーセージにフォークをぶっ刺して……俺はいつの間にか眠りに就いた。




「バアル・ゼブブ、起きろ! いつまで寝てるんだ。起きろ!」


 俺は悪酔いしてるのか? 耳元で囁く奴がいる。


「うるせー、眠いんだよ! 明日は休みだ、眠らせろ!」

 

 見えない声の主を追い払うかのように、俺は大声を出す。夢か? いや夢にしてもリアルすぎるだろ。香水と汗の混じった匂いが鼻をつき、俺は目を開けた。


 何処だ、此処は何処だ? 目の前に女が二人、男が一人、しかも初めて会う奴らだ。男はサラリーマン風の二十代前半だろうか。その横でロングヘアの女が、震えながら俺を見ている。誰だ? こいつら誰だ。


「……私はユーザーネームキラリと言います。貴方も特別枠候補の一人らしいです。案内人によるとこの四人の中で一人だけ、作品の書籍化をしてくれるらしいんです。今、その部屋に向かうエレベーターの中です」


 独特の浮遊感と閉塞感の中で俺は思考が止まった。馬鹿面をしていたんだろうか、サラリーマン風の男が貴方もメールを受け取ったでしょうと怪訝そうに言った。なんだ、偉そうにしやがって。俺がキッと睨むとそいつは目を逸らす。


───すぐにエレベーターが止まった。衝撃に驚いたショートカットの女が悲鳴を上げる。きつい香水はこいつか、俺は舌打ちをした。


「ユーザーネーム、女狐めぎつねさん、驚いたかい? 女の悲鳴はイイねえ、ゾクゾクするよ。……さあ、バアル・ゼブブが起きた所でこの特別枠一つを勝ち取る方法を教えよう。簡単な事だ! だけだ」


 エレベーター内にマイクがあるのか、声だけが聞こえる。悪魔だと名乗っても所詮は人間だろう、俺は鼻で笑った。下らない、大いに下らないがこんな事で俺の小説が書籍化されるんなら茶番に付き合ってやろうと思った。


「……本当に書籍化してくれるんでしょうね。悪魔に魂を売るって大げさじゃないですか? 僕たちはいったい何をすればいいんでしょうか?」


「ユーザーネームカズナリ君、いい質問だ。……ではまず始めに自分の黒歴史を話してみろ! 世間が驚くような事を言った奴にポイントを与え、一番少ない奴は失格となる。嘘や作り話は速攻失格だ! まずクジを引け」


 俺は何を曝け出せば、こいつら三人に勝てるだろうか? 悪魔に魂を売るほどの悪事はなんだ。


 













 


 







 

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