第13話 朝っぱらから珈琲を淹れて飲む
友人の村山弥生がドリップ珈琲のセットをくれた。
「朝早く起きたらね、これを淹れて朝日を浴びながら飲むんだ。最高よ」
私は「やってみる」と答えて珈琲のセットを受け取ったが、正直に言ってやる気は無かった。何故なら朝は朝食作りを始める直前ギリギリまで寝ていたいタイプだからだ。
しかしある土曜日、私は朝の5時前に起きてしまった。同居人の会社が休みなので朝食を作らなくて良いにも関わらず。
閉め切っていたカーテンを開け掃き出し窓の外を覗いてみれば、日は昇っていないものの東の空が白んでいてうっすらと明るい。眼下には無数の一軒家と、その向こうにどこぞの企業が持っている小さな倉庫が1つ。4つの搬入口それぞれに蛍光灯が灯されていて、中に夜中から働いている人がいることを想像させる。
そうだ、村山から貰った珈琲を飲もう。私は村山の発言を思い出し、早速マグカップに珈琲のパックを設置しお湯を入れた。焦茶の粒の集合体がお湯を含んで膨らみ、お湯がフィルターを通してカップへ落ちるとションボリと沈む。
この行程を3回ほど繰り返した後、私は黒々とした液体がなみなみに入ったカップを持ち、再び掃き出し窓の前に立った。そして白んでいく空と家並みを眺めながら珈琲を啜り、私は呟いた。
「苦っ」
子供舌の私にブラック珈琲はキツかったようだ。私は牛乳とはちみつを足しそこそこまろやかになった珈琲を、再び外を眺めながら飲んだ。それから件の倉庫で深夜から働き、これから帰宅していくであろう人や、各家々のこれからどこかしらの会社へ出勤していく人に思い馳せた。毎日どこかの誰かが働いていることに感謝しながら。
数分後、同居人の秋沢圭佑が珈琲の匂いにつられて起き出してきた。「お前1人で良いもん飲んでんな」と言うので彼にも珈琲を淹れてやると、秋沢はブラックのままで楽しみ始めたので私は悔しさに下口唇を噛むのだった。
黒牟田 初郎の美味い話 むーこ @KuromutaHatsuro
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