第12話 もんじゃ焼きを作って食べる

小学生の頃、お好み焼きが大の苦手だった。

理由は恐らく、小さな頃からの野菜嫌いの延長線だろう。お好み焼きに含まれる大量のキャベツがすごく気持ち悪く感じられていたのを覚えている。

そのくせもんじゃ焼きは食べられた。お好み焼きと同じく大量のキャベツを使っているハズだが、もんじゃ焼きについては全く問題無く食べられた。むしろ好物ですらあった。トロトロの生地と鉄板についたおコゲが美味しくて、いつか1人で沢山のもんじゃ焼きを食べたいとすら思ったものだ。




あれから二十数年。オジサンになった私はふとした折に「沢山のもんじゃ焼きを食べたい」という願望を達成できることに気づき、早速作ろうと準備に取りかかった。

まず大きめのフライパンを取り出し、続いて材料として数日前に使ったキャベツの余りと小麦粉、お好みソースを取り出す。干しエビやら豚バラやらを入れるレシピも存在するが、私はキャベツ一択だ。というか使えそうな具がそれしか無い。

キャベツを千切りにしたら少量の小麦粉とソースを水で溶かした液体にぶち込んで混ぜ混ぜする。それから油をひいて熱したフライパンの上にキャベツだけを入れて、しんなりとするまで炒めたら残った液体を入れて薄く広げる。正規のレシピではキャベツをドーナツ型にして中心に液体を流し込むが、恐らくアレは鉄板という縁(へり)の存在しない物体の上で調理する場合の話であって、フライパンの中においては関係無いのではないかと思われる。

そうして煮焼きのような状態にしてしばらく待っていたら、徐々に液体にとろみがついてきた。スプーンで端を掻いてみると、底が焦げ始めているのが見える。もんじゃ焼きの完成だ。


私はすぐに火を止め、その場で1口食べてみた。トロトロの半固形と化した液体からお好みソースの慣れ親しんだしょっぱさが感じられる。キャベツはホクホクで食べやすい。これぞもんじゃ焼きだ。

半分程食べたところで私はふと思い立ち、お菓子をストックしている棚からベビースターラーメンを取り出しもんじゃ焼きの上にかけた。ボリボリとした食感が加わって美味しさが増すのだ。

さらに半分食べた後、仕上げにミックスチーズを乗せてみた。余熱で少しずつ溶けていくチーズがまったりとして美味い。少々しょっぱくなりすぎたような気はするが。




2回に渡る味変の末、私は大きなフライパンの面積一杯に作ったもんじゃ焼きを完食した。小さな頃の夢を叶えた達成感で心が満たされたが、一方で腹の方にはまだ空きを感じた。

私は少し迷った末、冷凍庫から冷食のお好み焼きを取り出した。実は大人になってからお好み焼きも食べられるようになっていたのだった。

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