第100話 We will keep living on this world.
「ぐはあ! 疲れたーっ!」
「あ。お帰りなさーい」
玄関からオルヴァリオの声がした。リディも一緒だろう。シアはエプロン姿のままぱたぱたと迎えに行った。
「おうシア! これ見てくれよ!」
「なあに? オルヴァさん」
「あんたそればっかりよオルヴァ。良いけど」
「?」
泥だらけで帰ってきたふたりは、意気揚々と1枚の紙をシアへ渡した。
「……『特級証明書』!」
「そうだ。遂にやったぜ。これで俺も特級ハンターだ」
「俺『達』でしょ。お馬鹿」
「凄い! おめでとうっ!」
それはギルドからの正式な書面だった。シアは自分の事のように喜び、ぴょんと跳ねた。
「取り敢えずお風呂」
「沸いてるよー。私がいつもこの時間だし」
「助かるわ。ほらオルヴァ。寝るなら部屋行きなさい。玄関で寝るな」
「ほげ……」
「あー。荷物も片付けとくから。ふたりは先休んどいて良いよ」
「悪いわねシア。クリューは?」
「お仕事。最近帰り遅いの」
「へえ。あいつも頑張ってるのね」
ばたばたと、ドロドロのままふたりは2階に上がって部屋へ入っていった。それを、やはり嬉しそうに眺めるシア。
「『家』感あるねえ。今回も無事に帰ってきてくれて良かった」
『シア様。お鍋が』
「ああっ!」
ネヴァン教の事件が解決してから。
しばらくの時が経っていた。
「で、何して特級になったんだオルヴァ。トレジャーか?」
「ふっふ。聞いて驚くなよ。新大陸だ!」
「なに!」
「そうそう。あの『大霧海』を攻略したのよ。その先に、見たことない大陸があった。第一発見者は勿論あたし達。すぐに出回ると思うわ。世界が震撼するわよ」
「凄ーい!」
「ふふん。これでようやくエフィリスに並んだぞ」
「と言っても、エフィリスはたったひとりで『ガルバ荒野』制覇したらしいから、実力的にはまだ及ばないかもだけど」
「良いんだよ。同じ特級だ。約束してたんだ。チームアップするって」
「なら、次はエフィリスとその新大陸に行くのか」
「ああ。『大霧海』の越え方は俺達しか知らないからな。大遠征になる。他の特級も募るつもりだ。また山ほど土産話、持って帰ってくるからよ。楽しみにしててくれ」
オルヴァリオとリディが帰ってきた夜はいつもこんな調子だ。途端に賑やかになる。クリューも心から楽しそうに話を聞いている。そんな彼を見て、シアも嬉しくなる。サスリカもにこにこしている。
「で、あんた達子供はまだなの?」
「うーん。もういつでも授かっても良いよね。クリューさん」
「……そうだな。まあ焦る必要も無いだろう」
「ていうかリディさんの方は?」
「あたしはまだ冒険が優先かなあ。やっと特級になって、これからって時だし。ねえオルヴァ」
「ああ。子供には悪いがまだまだ足りない。今すぐ新大陸へ行きたくてうずうずしてるからな」
「オルヴァも『トレジャーハンター』になってきたな」
「なんだそりゃ。俺は最初からトレジャーハンターだぜ」
いつまでも、皆一緒に。その願いは最大限叶えられた。
『シア様。洗い物はワタシが』
「良いって。じゃあ一緒にやろ?」
屋敷に、使用人は居ない。家のことはすべてシアとサスリカが行っている。
「妻がふたり居るようなもんだな。クリュー」
「ありがたいことにな」
サスリカはもう冒険には行かない。壊れてしまったら誰も修理できないからだ。そんな危険を冒させる訳にはいかない。老朽化は激しいが、シアがなんとか応急処置を続けて、後は安らかに最後を待つ状態だ。
「しかしエフィリスは良いとして、サーガはローゼ帝国に戻って、マルは孤児院の先生か。もう集まれねえかなあ」
「そうね。前に全員集まったのはクリューとシアの結婚式だから……」
「別に一生会えない訳じゃない。なんならお前達の式にもう一度集めれば良い」
「確かに!」
恐らくは。しばらくはずっと、この生活が続くだろう。
「あんた仕事はどうなの? クリュー」
「こっちも順調だ。『冷蔵庫』と『ストーブ』は売れすぎて生産が追い付かない。今度中央大陸の方にも工場を建てるんだ。久し振りにエヴァルタに会って来るよ」
「おお、やるなあ。大社長!」
「シアとサスリカのお陰だけどな。俺はアイデアを出していない」
「でも私とサスリカじゃ折衝なんてできないもの。ねえ」
『ハイ。ますたーも役に立ってます』
「言い方」
「あははっ」
その日は夜中まで話し声、笑い声がしていた。
GLACIER(グレイシア) 弓チョコ @archerychocolate
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