第99話 西方大陸帰還

 それから、2年が経った。

 オルヴァリオは放免となり、自由となった。


「まったく遅いわよ」

「すまんすまん」


 彼はもうやつれてはいなかった。2年間ずっと、殆ど毎日リディと面会していたからだ。彼女の献身的なメンタルケアにより、オルヴァリオには以前の笑顔が戻っていた。

 クリュー達が全員で出迎えた。


「……クリュー。皆」

「さあ帰るぞ」

「…………! ああ」


 シアも彼の【心】を感じ取った。前に会った時の暗さは全く無い。一点の曇りも無い純粋な【心】だった。


「良かったね。オルヴァさん」

「ありがとうシア。ああ。皆に感謝しないとな」

「んじゃ、明日にでも西方大陸へ帰るぞ。俺は向こうでも王との謁見だのなんだのくっそ忙しい」

「そうだね。孤児院に報告しないといけないし」

「マル。身長伸びたな……え、マル?」


 オルヴァリオが、最も驚いたのが。

 成長したマルの、さらに大きくなったお腹であった。


「…………エフィリス?」

「あん? なんか文句あんのか」

「えっ。いや……」


 何があったのか、問われたエフィリスはそっぽを向いて、マルはお腹を撫でながら赤面した。

 サーガが、溜め息を吐く。


「この男はこういう男です。トレジャーハンター以外、男としてはこういう奴ですからね」

「…………ああ、そう……」


 驚いたが、オルヴァリオがとやかく言うことではない。マルが幸せそうだったので、それ以上は何も言えなかった。


 その後、エヴァルタの屋敷でパーティをした。オルヴァリオは泣いていた。リディもつられて泣いた。帰ってきたのだと実感した。


 そして。


「じゃ、随分お世話になっちゃったわね。エヴァルタさん」

「うん。中央に来た時はまたいつでも寄ってね」


 エヴァルタは、港まで見送りに来てくれた。なんだかんだと、2年も居たのだ。彼女も最早仲間である。


「おう。トレジャーハンターやってりゃ、中央へまた来ることはあるだろうな。宿代と食事代が浮くのはありがてえ」

「厚かましいですよエフィリス」

「ふふっ。良いよ。何でも作るし好きなだけ泊まってね」

「落ち着いたら伝書で連絡を入れる。俺達の結婚式には来てくれないとな。シア」

「……うん。またね、エヴァルタさん」

「またね。シアちゃん」


 彼らは笑顔で別れた。


——


——


「で、どうするんです? 私はもう引退しますよ。マルもあんな状態で。ひとりでトレジャーハンターするんですか?」

「…………む」


 船の上で。一同は甲板に出ていた。中央大陸から西方大陸へ向かう客船だ。来る時はネヴァンに見付からないよう隠れるように来たが、今回は大手を振って帰国できる。潮風で、彼女らの髪が靡く。


「そうよ。この子が生まれるまでなんて待てないでしょエフィリス。ていうかわたしも引退よ。子育てしたいし」

「む。未開地でやりゃ良いじゃねえか。良いハンターに育つぜ」

「本気で言ってる?」

「…………」


 少し、関係性が変わったらしい。詰め寄るマルと、たじろぐエフィリス。彼はマルに逆らえなくなってしまったようだ。


「……オルヴァリオ!」

「ん」

「一緒にやろうぜ。お前らも、クリューは引退だろ?」

「……ふむ。良いですね。彼らと一緒なら安心です」

「どういう意味だサーガこのやろ」


 エフィリスはオルヴァリオを呼んだ。正確にはオルヴァリオとリディを。


「……特級ハンターとチームアップか。確かに魅力的だな」

「そうね。受けて良いと思うわ。クリューだけじゃなくて、サスリカも抜けるんだし」

「だがよ、リディ。俺は自分の力で成り上がりたくもあるんだ」

「あー……。あんた考えそう」

「ねえ、じゃあ私、付いてって良いかな」

「シア?」

「や、別にそんな危険な所じゃなくて良いからさ。私も、一度くらい冒険したいなって」

「おう! 良いぜ。ガルバ荒野なら俺の庭だ」

「良いの? クリュー」

「……そうだな。じゃあ先に行くか。ラビアに戻ったら俺も実家の修行、シアも花嫁修業でしばらく動けなくなる」

「は? 花嫁修業?」

「なんだそりゃ」

「…………ねえシア、もしかしてだけど」


 嫌な予感がしたリディが、シアへ小声で聞いた。


「うん。……スタルース家って、良家なんだね。婚前交渉も無し。あはは」

「…………うっそ……!」

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