第98話 祈り

「そうか。リディが残ったと。んで……お前らがくっついたと」


 エヴァルタの屋敷へ帰ってきた。クリューとシアと、サスリカが。


「おめでとう! シアちゃん」

「おめでとうございます」

「……えへへ……」


 クリューとシアは結ばれることになった。だが、正式な手続きや皆の前での儀式などはまだ先だ。ネヴァン事件が完全に解決してからになるだろう。オルヴァリオにも祝福して欲しいので当然だが。


「へっ。若いねえ」

「エフィリスもまだ若いじゃないですか」

「俺はあれだ。冒険が恋人だよ。所帯なんざ持ってる暇ねえなあ」

「……はあ。マルも何か言ってやってください」

「え。うん。エフィリスも結婚したら?」

「いや、あのなあマル。相手も居ねえのに」

「ここに居るよ」

「はあ?」

「…………知らない」

「は?」


 マルは、実は何度かエフィリスに想いを伝えたことがある。だがいつも、こうなるのだ。彼女は頬を膨らませて、屋敷の奥へ引っ込んでしまった。


「今のはエフィリスが悪い」

「はぁ? なんだよそれ」

「エフィリス。本当に何も気付いていないんですか?」

「…………」


 サーガに詰め寄られて。

 エフィリスは頭を掻いた。


「……まだ早えだろ」

「それを、伝えていないでしょう。彼女は相手にすらされていないと毎回落ち込んでいます」

「……つってもよ。あいつはまだガキだし。ていうか俺にとっちゃ」

「エフィリス。トレジャーハンターは自由です」

「うっ」

「…………はぁ。まだ、もう少し掛かりますかね」


 サーガは溜め息を吐いた。この男は無頓着過ぎる。マルはおろか、クリュー達も全員エフィリスより年下であるというのに。


——


——


「ねえサスリカ」

『ハイ』


 シアは星を見るのが好きだった。遠くに、思いを馳せるのが。


「……ここってさ。ぶっちゃけ地球じゃないよね」

『ハイ。星の配置が違います。1万年のズレを計算しても合いませんから』

「うん。じゃあさ」

『恐らく、世界の破滅後に、アニマ様か、どなたかの手によって運ばれたか、飛ばされたのでしょう。この星は、人類移住計画「Project:ALPHA」の候補地のひとつだと思います』

「……だよね。やっぱり、地球はもう駄目になっちゃったんだね」

『ハイ。恐らくは』


 思いを馳せる。遠くを。昔を。


「……あんまり、考えても仕方ないかもね。私達にはもうどうすることもできないし。今こうして人類が存続してるなら、計画は成功したって言えるもんね」

『ハイ。ワタシ達が今、ここで生きていく。それで良いと思います。シア様は、シア様ですから。今の、シア様の人生を』

「……うーん。こんなこと考えるのは、アニマよりはソラちゃんかなあ。あの子もいつも星を見てた」

『古代のことを、ますたーや皆様にお話しになりますか?』

「…………うーん」


 サスリカの問いに、シアは腕を組んで考えた。


「別に要らないんじゃないかな。興味ないだろうし。『トレジャー』って、いくつか見たけど。私達の知らない文明が1万年の間にあるよね、これ」

『ハイ。この星での文明は、ワタシ達には分かりません。あの古代都市や黄金の城も、知りませんし』

「うん。だから、良いんじゃないかな。彼らが暴きたいのは誰も知らない古代文明でしょ。私達のことは、もう継がなくて良いよ。私が……。クリューさんの赤ちゃんを授かることで、それで終わりにしよう。後はもう、次の世代に託して」

『……ハイ』

「なーんか私、異世界転生者みたいだよね」


 そこへ。


「ちょっと良いかしら」

「エヴァルタさん」


 エヴァルタがやってきた。彼女は白い杖を持っていた。シアも、見覚えがある杖だ。


「それ……」

「返そうと思って。貴女達の時代の物でしょう?」

『……王の杖』


 受け取った。ただの古い杖だ。だが。


「!」


 抱き締めた瞬間に、山ほどの【心】が滝のように流れ込んできた。


「……シアちゃん?」

「…………うん。ありがとう。私も、末裔として受け入れてくれたみたい」


 1万年以上前の。もっともっと前からの。先祖代々の【祈り】が。

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