戦場の天使、異世界に舞い降りる

才有りながら不遇の者が、仲間から追放されて初めて人生を謳歌する、追い出した者たちの破滅を添えつつ――昨今隆盛を極める「もう遅い」系。
その流れを踏襲しつつ、近代医学・近代戦風味の戦場をミックスして大迫力に書き上げたのが本作です。

主人公の少女エイダ・エーデルワイスは回復魔法は今一ながらも応急手当の達人。え、応急手当、魔法で失くした手足を生やせる世界で……? いやいや侮るなかれ、衛生や心肺蘇生等の概念を理解して適切に処置し、強力な回復魔法の使い手の元まで運ぶ猶予を作れる。未だ科学のこの世界において彼女の技能は稀有で、とんでもない価値を秘めているものでした。特に、剣槍相打ち魔法飛び交う戦場の最前線では。

そう、冒険者パーティから追放された彼女はつるっと戦場に飛び込むのです。驚くべきはこの精神性。「人助け」への飽くなき執念だけでできたような少女です。ひとたび彼女がチャンスを与えられれば、修羅場をスイスイくぐり抜け兵士達の命を救う働きぶりは八面六臂、胸躍る大活躍! そして、新たな仲間達の信頼を得た彼女は更に人を救う為に――。

ひたむきで強烈にエネルギッシュなエイダの物語は痛快で楽しくもあり、現実の看護師の先駆者たちの事績を追っているような尊さがありました。

おっと忘れてはいけない。本作は癒す物語なだけではなく、当然戦う物語でもあります。エルフのレーア・レヴトゲン大尉を筆頭とした軍人らが勇ましく奮戦する姿がしっかり描かれ、もちろんエイダを追放した冒険者達も登場。意地悪な彼らの末路はどうなるのか、戦線の行方は、エイダはなぜ人を救うのか。絡み合う人々の思惑をしっかりまとめて大変読み易いにも関わらず骨太のドラマとなっています。どうぞみなさんもお楽しみあれ!

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