僕らは飛び立つ。意志こそが力となる夢の世界へと。

 夢の中での記憶は、だいたいひどい目に遭うものしか残らないものだ。よくわからない敵に追いかけられたり、何かにのし掛かられていたり。そしてだいたい逃げるために走れない。人は夢の中ではほとんど無力だ。
 そんな理不尽ばかりの夢の世界でも、ごくまれに人はその中で空を飛ぶことができる。それは、敵がいて、逃げられないことに気づき、あがき、やがて夢を夢だと理解できた奇跡のなかでやっと起きる。ちなみに私は夢の中では泳ぐようにしか飛んだことがない。どこかの壁を蹴って移動するか、つねに地面スレスレを飛んでるか。たぶん横になっていることを、私の現実の感覚が空気を読まず伝えてきて、それを私が無視できないせいなんだろう。私の幽体離脱は、私の意志の弱さゆえに中途半端なままだ。
 けれど主人公たちは、夢を夢であることを、ここが現実の世界ではない、アストラル界と呼ばれる世界だと理解した上で、空を自由に飛び回る。そして、夢の中ではほとんど無力な私たちの代わりに、よくわからない敵、夜蝕体《よしょくたい》を狩ってくれる。各人の似姿、万能ではないが故に魅力的な個性あふれる武器、アイディールたちを、その意志の強さを武器にして。おかげで我々は夢から目覚めたあとで彼らへの恩など忘れ、つまらないもののどうにかしないといけない現実に、必要十分な可能性を抱えたまま生きていける。
 けれど、私も夢の中で戦いたいのである。自分の貧相な武器を抱え、試行錯誤してみたいのである。それは、目覚めたまま見る夢であり、決して覚めることのない情熱だ。
 この作品には、そんな我々の果てなき夢へと飛び立たせてくれる不思議で素敵な力がある。