人々の〈可能性〉を守るため、高校生の零矢が幽体となり〈アストラル界〉で謎の生物〈夜蝕体〉と戦うSFバトルアクション。
設定がとてもよく練られていて、文章もすっきりしているので、しっかりと物語に没入できました。
また、強くてカッコいい女性がたくさん登場する点も本作の魅力です。
序盤で零矢を助ける美少女、ノフイェは、零矢が〈夜蝕体〉と戦う組織に所属するきっかけにもなります。文章からオーラが伝わってくるくらい存在感のあるキャラクターです。
幼馴染の葉叶は、くじけそうになる零矢の背中を押してくれたりと、とても頼りになる存在です。物語後半では、葉叶の想いだったり、過去だったり、その辺りが明らかになって、読者の胸を打ちます。彼女のことをますます好きになってしまうこと間違いなしです!
他にも、圧倒的な強さを誇る歴戦の強者であるエクレシアや、過去に大切なものを失って、それでも前を向いて生きる聡子など、守りたいもののために戦う女性がたくさん活躍します。みんなそれぞれ本当に素敵です!
ダークな雰囲気もありながら、とてもポジティブな物語で、読後感も非常に良く、頑張ろう!という気持ちをたくさんわけてもらえる作品でした。
(「イケメン女子が大活躍する話」4選/文=蒼山皆水)
夢の中での記憶は、だいたいひどい目に遭うものしか残らないものだ。よくわからない敵に追いかけられたり、何かにのし掛かられていたり。そしてだいたい逃げるために走れない。人は夢の中ではほとんど無力だ。
そんな理不尽ばかりの夢の世界でも、ごくまれに人はその中で空を飛ぶことができる。それは、敵がいて、逃げられないことに気づき、あがき、やがて夢を夢だと理解できた奇跡のなかでやっと起きる。ちなみに私は夢の中では泳ぐようにしか飛んだことがない。どこかの壁を蹴って移動するか、つねに地面スレスレを飛んでるか。たぶん横になっていることを、私の現実の感覚が空気を読まず伝えてきて、それを私が無視できないせいなんだろう。私の幽体離脱は、私の意志の弱さゆえに中途半端なままだ。
けれど主人公たちは、夢を夢であることを、ここが現実の世界ではない、アストラル界と呼ばれる世界だと理解した上で、空を自由に飛び回る。そして、夢の中ではほとんど無力な私たちの代わりに、よくわからない敵、夜蝕体《よしょくたい》を狩ってくれる。各人の似姿、万能ではないが故に魅力的な個性あふれる武器、アイディールたちを、その意志の強さを武器にして。おかげで我々は夢から目覚めたあとで彼らへの恩など忘れ、つまらないもののどうにかしないといけない現実に、必要十分な可能性を抱えたまま生きていける。
けれど、私も夢の中で戦いたいのである。自分の貧相な武器を抱え、試行錯誤してみたいのである。それは、目覚めたまま見る夢であり、決して覚めることのない情熱だ。
この作品には、そんな我々の果てなき夢へと飛び立たせてくれる不思議で素敵な力がある。
夜ごとの幽体離脱を楽しんでいた主人公:零矢は、可能性を食らう怪物ヴァーミン素体に襲われたことを機に、少女ノイフェと出会う。可能性を守る組織、ノマドに参加することになり、そしてやがては世界を巡る大きな争いに関わることに……。
己の理想が具現化した武器「アイディール」を手にして戦う異能の戦士という王道的な設定が、やや複雑な背景設定とよくマッチして、スッキリ楽しめる作品に仕上がっています。
設定はしっかり作りつつ、作品の軸はあくまでも零矢、幼馴染の少女である葉叶、異能の戦士ノイフェの3人のドラマ。ボーイ・ミーツ・ガールを貫いているところも素晴らしい。
設定・アクション・ドラマと三本揃った王道の異能アクション作品として、秀逸の作品です。
(完結に合わせてレビューを書き換えました)