第43話 敵が味方、逆もまた然り 14
*
翌朝、チャイムが鳴るギリギリの時間に登校した織斗の元へ川谷が駆け寄ってきた。
キョロキョロと、織斗の背後を気にしながら。
「おはよう、神木。緋真まだ来てないんだけど、休み?」
普段なら、織斗よりも広の方が早く登校する。
この時間になっても広の姿が見えないことから、不審に思ったのだろう。
「あー、うん……」
予測していたとはいえ、実際答えるとなるとやはり言い訳が難しい。
織斗は視線をそらしたあと、意を決して顔を上げた。
「広さ、しばらく学校来れないかも」
「学校来れない? なんで?」
「えーっと、確か……おうちのご用事って、そういうことにしとけって、あやめが……」
「おうちのご用事? え、なに? ていうかそういうことにってどういうこと? あやめって誰?」
「えーっと、えーっと……うわぁ、俺やっぱ嘘つけねぇ……実は昨日、刺されたんだ」
「刺された? え? 緋真が?」
「自分ちの家族に」
「は? え? なに? 緋真の家ってそんなに仲悪いの?」
「仲悪くはないと思うんだけど……」
「どういうこと? どういう状況?」
「あのあと……あ、病院抜け出して一緒に戦ったあとな?」
「……ん?」
「やっぱヤバかったみたいで。俺が封印してすぐ、ぶっ倒れて……」
「織斗くん、邪魔」
背後からの声に、びくぅっと織斗の身体が跳ねる。振り返った先には、満面の笑顔を見せる咲。
もちろん自然なものではない、作って貼り付けた笑顔。
「うるさいよ、すごく。ペラペラ喋ってないで、教室入ろ?」
にこぉーっと微笑む咲が織斗を通り越して教室に入る。
それ以上喋らないでね? わかってるよね? と、圧をかけながら。
「てことだから川谷! じゃあな!」
「え、待って。意味わかんないんだけど?」
「だから、広が刺されたから……いてっ!」
「痛い?」
「あ、いや、胸のポケットが……」
しどろもどろに話す織斗の胸元が再度、ドンッと強く叩かれた。それと同時チャイムが鳴り、織斗は胸元を押さえて自席に座る。
涙目で視線を落とすと、制服の胸ポケットの中で頬を膨らませている姫未と目があった。
「咲ちゃんに忠告されたでしょ? バカなの、あんた」
「いや、だって……」
普通の声量で話していた織斗だが、姫未の姿は一般人には見えない声が聞こえないことを思い出し、小声に切り替えた。
「嘘つけないんだよ、俺」
「でしょうね。じゃないとここまで馬鹿正直に喋らないわね」
「真っ直ぐな性格だからな、俺は」
「なにカッコつけてんの? 寝起きの緋真当主みたい」
「あれと一緒にするなよ!」
思わず声を張り上げてしまった。
教室中の視線が織斗に集まる。
「あ、いや、えっと……ゲームの話です」
いつの間にか教壇に立っていた担任教師が、ギロリと織斗を睨みつける。
「神木、おまえ、また学校でゲームを……」
「違う! ゲームじゃくて、えっと」
言い訳しようと織斗が立ち上がると同時、教室のドアが開いた。織斗に向けられていた室内の視線が、そちらに切り替わる。
教室の入り口には広が立っていた。
視線を集めてしまったことに気づき、申し訳なさそうに一礼して中に入る。
「あれっ? 緋真、昨日刺されたんじゃないの? しばらく学校来れないって」
川谷の発した言葉に、広はぴたりと立ち止まる。
そしてニコリとわざとらしい笑みを浮かべ、自席へと腰を下ろした。
笑顔の意味をわかっていない女子が歓喜の空気を醸したが、織斗はすくみ上がって顔を背けた。
「怒ってる……広、怒ってる」
「あんたがペラペラ喋るからでしょ。ていうか緋真の当主大丈夫なの? しばらく入院するんじゃなかったの?」
「馬鹿だな、姫未。広を誰だと思ってる? 緋真の当主様だぞ」
「知ってるけど?」
「冷静なツッコミきつい……だから、あのくらいの怪我で入院なんてありえない。家臣にしめしがつかない、とか思ってそう」
「相変わらず面倒くさいわね。まぁ、当主は人より傷が癒えるの早いしね」
「……え?」
「知らなかったの? あんた達一族は一般人より回復能力が高くて、当主となればその力は更に強くなる。ちょっとした怪我じゃ死なないわよ、あんた達」
「マジか……そう言われてみれば俺、大怪我したことない」
「ていうか織斗、私の声は一般人には聴こえてないからね?」
はっとして辺りを見渡すと、苦笑いの咲と鋭い眼光を織斗に向ける広。
他の人には聞かれていなかったみたいで、織斗は安堵して項垂れる。
「平和だねぇ」
ケラケラっと、晴れた空のような姫未の笑い声が胸ポケットの中で響いた。
神の一族と世界の王 サエグサナツキ(七種夏生) @taderaion
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