2つの理由

六畳のえる

2つの理由

「やっぱりね、ある行動が2つの理由を持ってると、美しいなあと思うわけよ」


 高校に近いファミレスからの帰り道、彼女はさっきまで読んでいたミステリーの話を聞かせてくれる。


「2つの理由って?」


「例えば、アリバイを作るために誰かと一緒に荷物を運び出したのが、実はトリックの準備にもなってたとかさ。


 ある人とケンカすることで自分が犯人じゃないと思わせつつ、実は揉み合いの中でダイイングメッセージもうまく隠したり。


 そういう風に、もともと意味のある行動だったものが更に別の意味も持っていた、みたいなの、すごく巧妙だなって思う」



 手に持ってた本をしまい、「さむいねー」と右手に手袋をする。「こっちはこれがいい」と左手を俺の右手に絡めた。


 1月の夜の入り口、冷え込みは相当なもの。今日は初雪の可能性もある、と朝のニュースで言っていた。ボタンを留めたコートの襟部分に2人ともあごをうずめ、カップスープの湯気のように白い息を吐き出す。



「2つの意味ねえ。ミステリー以外ではあんまりなさそうだな」


「そんなことないんじゃない? 例えば……例えば……ねえ、なんかお題ちょうだい!」


「じゃあ……『冬』で」


「冬ね……あ、おでんを食べるのは、おかずを食べるためでもあるんだけど、汁物を食べるためでもある、っていうのはどう?」


「……ちょっと違わないか、それ」


「えー、じゃあね……んと、積もってすぐの雪って、足跡つけたくなるじゃん? あれって、歩くためなんだけど、ついでに『この雪を踏んでみたい』っていう欲望を満たすこともできるの」


「ぶはっ! なんだよそれ!」


 結構無理があるだろ、とツッコむと、彼女は「むー、そうかなあ」と眉根を寄せた。


「まあ、お前が足跡つけるのが好きだってことは分かったから、そういう機会あったら譲るよ」


「えへへ、ありがと」



 その時、空から舞い落ちる白を視界に捉える。広げた手に落ち、冷たさを残して水になる。黒に染まりつつある町に、その氷の粒はよく映えた。


「わっ! 降ってきたねー」

「降ってきたな」


「積もるといいねー!」

「積もるといいな」



 朝起きて白一面の世界になってたら一緒に歩こう。足跡、やっぱり俺もつけたいから2列作ろう。


 隣で笑ってる彼女を見ると、この雪もかくや、愛しさが積もってくる。



「どしたの?」


 覗き込む彼女に、微笑みながら小さく首を振って、手を伸ばす。


「ついてるぞ」



 ほら、君の頭を撫でる理由が、もう1つ。

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