第2話 クラスと紙交換

あの後、僕の新しいクラスを教えてもらい、担任の先生も紹介してもらった。


そして今、僕はドアの前に立っている。


ここで絶対に普通の高校生になる!だからここでの失敗は許されない!


心臓の音がどんどん大きくなり、速くなる。


僕がここまで緊張する理由が分かるだろうか?それは──友達が欲しいからだ!

僕は憧れていた。同じ制服を着て自転車を押し、歩きながら下校する学生の姿を黒の高級車、何の温かみもない車からずっと見ていた。


僕だってああやって友達と下校したり、帰り道に寄り道したい!


深呼吸をしてからドアに手をかける。


「失礼します」


本当に柄にもなくガチガチに緊張したものだ。教卓まで何歩でもないのにとても長く感じる。


斉藤湊さいとうみなとです。よろしく」


黒板に名前を書きそう言う。

一瞬、榎本と書きそうになって冷や汗をかいたのは言うまでもない。そして、転校生だからだろうか。男女共に好機的な目を向けられている、と思う。


「じゃあ、後ろの空いてる席に座ってね〜」

「はい」


担任の先生は五十嵐花美いがらしはなみと言い、新担任のそうだ。

彼女はいわゆる天然という部類で榎本くんの正体には気付かないだろう、と呉直さんが僕の担任に推薦したようだ。


「みんな、新しいお友達が出来るから分からないことがあったら教えてあげてね〜」

「分かってるよ!はなちゃん私たちのこといくつだと思ってるー?」


生徒の応答と共に笑いが生まれた。

どうやら先生は『はなちゃん』の愛称で呼ばれているようだ。


ホームルームが終わり、誰か話しかけてくれると期待して待っていたが一向に誰も来ない。


もしや僕は、失敗したのか───!?




僕は誰にも話しかけられず、1時間目が始まってしまった。

授業の内容なんて入るわけが無い。

まぁ、大抵の勉強のことはもう習い終わったからいいんだが気持ちの沈みが尋常じゃない。


……自分から話しかけるか!?

僕はコミュ障ではない!断じて!だから出来るはずだが…。

話題はどうすればいいんだ?前にいた学校で話す人は少しはいたが、勉強ばかりの話で持ち切りだった。

それに、学校以外で話すとなればプロジェクトの打ち合わせなどだ。


…ダメだ。もう僕は友達を作れない……。

そして、気付けば授業の半刻を回ろうとしていた時だった。


「……!!」


下を向いていた頭に何かが当たった。

どうやら、前の席の男子が僕に向かって紙を投げて来たようだ。


新手のいじめかっ!?折り畳められた紙を見つめて思考を巡らせる。


意を決してその紙を開けてみれば

"どこから来た?"

と、1文。


これは、仲良くなれるチャンスかもしれない!

そしてこの手紙は授業中退屈になった生徒同士が話す方法として用いられる『紙交換』というものではないだろうか!?


僕はそれに、

"東京から"

と書いた。これをどうやって渡せばいいのだろうか。よく見たら前の男子は後ろに腕を組みながら待ってくれていたようだ。

先生に気付かれないようにそっと彼の手に置いた。


返事が来るまでそわそわしてしまう。何か変なことを書いたかもしれないだとか。

そして、また紙が来たのでそっと開けた。


"こういうのやってくれんだ"


こういうのってこの『紙交換』のことか。続けて返事を書く。

"うん どうして僕に書いてくれたの?"


返ってきた返事と言えば


"なんとなく"


だけで、そんな曖昧な返事にふっと笑ってしまう。


"名前、聞いていい?"


まだ彼の名前を聞いていなかった。すると


"木崎陽きざきはる"


陽っていう名前なのか。名前の通り活発そうで運動が得意そうだ。


僕たちは紙交換を夢中になってやり、授業の最後に


「木崎、それと斉藤。この後すぐ職員室に来い」


呼び出しされて2人で無事怒られた。

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超有名会社の次期社長は普通の男子高校生になりたい またたび @1018_122_2815

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