最終話

 二月十四日、バレンタインの日である。

 俺はたぶんいつもよりもソワソワしながら柚希と朝の待ち合わせをしていた。


「おはようカズ!」

「おはよう柚希」


 愛おしい彼女、柚希がニコニコと微笑みを浮かべながら俺の腕を抱く。

 一応チョコを受け取るのは放課後、彼女の家でということになっているのでそれまではお預けだ。

 待ち遠しいような気もするが、柚希の家で受け取ること自体が特別な証のように思えて嬉しくなる。


「放課後まで待ってね? 作ったのは普通のチョコだけどね」

「普通でも良い。俺は柚希からもらえるだけで嬉しい」

「そっか♪」


 あぁ……でもなんというか、この彼女の笑顔だけでお腹が膨れそうだ。

 それこそ言ってしまうとチョコは要らない……とは言わないのだが、決して形がなくともこの幸せが俺を包んでくれている。


「なんかカズが凄くニヤニヤしてるぅ!」

「嬉しいからに決まってるでしょうが!」

「だよねぇ嬉しいよねぇ♪」


 彼女からのバレンタインチョコが嬉しくないわけがない。

 それから学校に着くまで、俺はずっと柚希と引っ付いたまま……そして放課後のことを想像して俺はずっとニヤニヤしていたらしく、空と凛さんに苦笑されっぱなしだった。


「これはもう柚希しか見えてないなぁ」

「そうですね」

「……あぁでも、似たようなもんか。俺も凛しか見えてないし」

「……っ!?」


 おい、目の前でイチャイチャするんじゃないよ。

 まあ彼らだけでなく、蓮や洋介の方も今日は特別な日になるだろうし……日を改めてどんなだったのかをみんなで話すのも面白そうだ。

 さて、待ち望んでいる時って基本的に時間が経つのは遅いイメージだけど、今日に限っては早かった。


「……………」

「あはは、ソワソワして可愛いなぁカズは♪」


 いや、俺もどうしてこんなにソワソワしているのかは分からなかった。

 放課後を知らせるチャイムが鳴った後、みんなに声を掛けて俺は柚希と一緒に学校を出て……向かう先は当然彼女の家だ。


「乃愛ちゃんは洋介と出掛けるんだっけか」

「うん。今日はちょっと遅くなるかなぁ」


 乃愛ちゃんの方もしっかり楽しんでいるようで何よりだ。

 流石にまだ家に帰る時間も早いということでまだ柚希の両親は帰っていないので、思う存分二人でどこでもイチャイチャ出来ると喜んでいた……そしてそんな姿を見れるのもまた俺を嬉しい気持ちにさせてくれていた。


「お邪魔します」

「いらっしゃいカズ♪」


 ちょっとトイレを借りた後に彼女の部屋に移動した。

 柚希は既にチョコの包みを胸に抱いており、手作りだと聞いたがまるで店で買ったかのような綺麗な包装だ。


「……ねえカズ」

「どうした?」


 これから楽しみだったチョコをもらうだけ、だと思ったが柚希は真剣な表情となって言葉を続けた。


「あたしね、この機会に言いたいことがあったの」

「言いたいこと?」

「……今日、あたしは去年と同じようにカズにチョコを渡す」

「……うん」

「去年と今年だけなのは嫌……これからずっと、ずっとあたしからチョコをもらってほしいの。ただのチョコじゃない、想いを込めたチョコをこれからもずっともらってほしいの!」

「……………」


 それは大きな声で、とてつもない願いの込められた言葉だった。

 これまで何度も柚希には好きだと、愛していると、一緒に居たいと伝えられ、それは同時に俺だって伝えている。

 今の言葉にしてもいつもと同じ愛の込められた言葉に違いない……でも、それだけ柚希はいつだって本気で俺のことを想ってくれているんだ。


「……そんなの、そんなの決まってるだろ? ずっとずっともらいたいよ、ずっとずっと俺だけが柚希から本気のチョコをもらいたい」

「……えへへ、それこそ当然だよ。って、ちょっと空気が重かったね」


 確かになと俺は笑った。

 柚希は言いたいことを言えて満足したのか、その胸に抱いていたチョコの包みを俺に差し出した。


「ハッピーバレンタイン、今年もあたしの愛を受け取って♪」

「受け取ります!!」


 まるで先生から賞状をもらうかのように俺はチョコを受け取った。

 柚希がずっと持っていたからなのか温かいチョコ、溶けるほどではなさそうだがこの温もりも柚希の愛なんだろうなとちょっとクサいことを考える。


「……ほんとはね?」

「うん?」

「その……やっぱりしたいことがあったんだよね。体にチョコを塗ってあたしを食べてってやつ……一度だけじゃなくて何度だってしたいもん」

「それは……エッチすぎて俺が暴走しちまうぞ」

「しても良いじゃんか。だってあたしたち、最高の恋人同士だもん」


 ……いつも思うことだ。

 俺の彼女である柚希は一々言動が可愛く、常に俺のことを思ってくれているような言葉を投げかけてくれる……それは逆も然りだけど、俺は何度彼女のことを可愛いと思ったのか、愛おしいと思ったのか……何度、彼女とずっと……それこそお互いが終わるまで一緒に居たいと願うのは重いかな?


「なあ柚希」

「なあに?」

「俺さ……もう何度伝えたか分からないけど、今日もまた言わせてくれ」

「っ……うん」

「本当に、本当に俺は柚希が大好きで仕方ない。こんなに好きな人、たぶんだけど一生もう出会うことはないと思う」

「出会えないよ。だってあたしがもう居るもん」

「……そう、だな。そういうとこだぞ柚希さん」

「そういうところが良いんでしょ和人さん」

「……はは」

「……ふふ」


 なんというか、俺はもう絶対にこの子から離れないんだなと強く思える。

 何があっても大丈夫だと、何があっても乗り越えられるとそう思える確かな繋がりが既に俺たちの中にあって、それは何があっても決して切れることはない……仮に切れそうになっても、頼りになる友人たちが無理やりにでも繋ぎ直してしまいそうな気さえしてくる。


(俺たちは恵まれているな……だからこそ、その全てを大切にしていくんだ)


 その上で彼女を大切にし、たくさんを愛して、大好きだと伝えて……俺を選んでくれた彼女の笑顔が曇らないことをここに誓うんだ。


「愛してる。柚希」

「あたしもだよカズ♪」

「これからもずっと、ずっと一緒だ」

「うん! ずっとずっと一緒ね!」


 俺たちは絶対に離れたりしない、絶対にだ。

 だから柚希、これからもずっと俺と一緒に居てくれ……大好きだ!


【あとがき】


ということで今作はこれにて完結です!


ちょっと突然だったのは手が止まっていたからなんですよね。

忙しいのもありますし、キリが良いのでこれで終わりとします!


長い間お付き合いいただきありがとうございました!

 

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やれやれ系主人公っぽいやつを観察してたらいつの間にかその美少女幼馴染に気に入られていた件 みょん @tsukasa1992

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