なにが現でなにが夢か、自己認識というものの心許なさ

 永遠の命をもたらす香を求めて、森と砂漠の向こうにあるという伝説の城を目指す人々の物語。
 ジャンル設定にもある通り、異世界ファンタジーなのですけれど、でも「ファンタジー」と聞いてぱっと浮かんでくるものとは雰囲気が異なるというか、いわゆる冒険活劇やジュブナイルとは違うタイプのお話です。単純にモチーフが東洋風、あるいは宗教的というのもあるのですけれど、でもそれ以上に物語自体に古い伝承のような雰囲気の漂う、重厚かつ読み応えのある物語でした。なんなら法話みたいな〝濃さ〟を感じる。
 作品を通じて語られていること、ぶつけてくるものの強さが好きです。なかなか容赦がないというか、正直「そんなのもうどうしようもないじゃない」と匙を投げたくなるような、強烈な問いかけ。キャッチコピーにもなっている「全ては偽りかもしれぬ。全てが幻かもしれぬ。」という部分。
 このお話自体はファンタジーですので、その点わかりやすく幻してくれているのですけれど。しかしそれはそれとして、人は容易に(かつ無自覚に)自分の記憶を書き換えてしまうことができるわけで、つまりそれを言われると立つ瀬がないというか、もう本当にどうしようもなくなってしまう。結局はある程度、なにがしかの自己認識をもってそれを「現実」と規定して生きるより他になく、しかしそれを「すべては空しい」とされてしまうことの、このどうしようもない寄る辺のなさ! 読んでいる最中の、このどんどん足場を崩されていくような感覚が、なかなか壮絶というかすっかりやられました。どこに捕まって立てばいいのかわかんなくされる感じ。
 その上で、というか、それでこそ最終話が答えとなるのだと思うのですけれど。美しく、また幸せな幕切れではあるものの、でもこれはこれでさらに一回り壮絶ともいえる解答であったりして、まあ本当にパワーがすごかったです。語り得ない、とまでは言わないものの、語るのが難しいことをしっかり語ってくれるお話。いきなりとんでもないところに連れ出してくれるような、濃厚な問いを投げつけてくる作品でした。