第6話
「…はっ!」
「ウィルさん大丈夫ですか!?」
「俺は…いや。それよりあのガキ…ロイとか言ったか?アイツは?」
「もう帰りましたよ。一応明日また顔を出すようには言ってあります」
「そうか…顔出したら俺にも教えてくれ。聞かなきゃならんことがある」
カリナはウィルの神妙な面持ちに緊張しながらも深く頷く。
ウィルはベッドから降り立ち上がろうとするが、いまだに残るダメージで蹲ってしまう。
「グッ…」
「無理しないで下さい!骨にヒビが入ってるんですから!」
「これぐらいどうって事ない」
「もう昔と違うんですから!ちゃんと休んで下さい!」
カリナは蹲ったウィルを無理矢理にベッドに寝かしつける。
「すまんな。今日はお言葉に甘えさせてもらう事にする。思った以上にあの一撃が効いてるみたいだ。ハイケンに代行を任せると伝えておいてくれ」
「わかりました」
そう言ってカリナは部屋から退室し、一人残ったウィルはロイの一撃を思い出しながら思案する。
(あの一撃は間違いなくあの方の技だった。それを何故あの少年が?)
ウィルは今は考えても仕方ないと首をふり、傷んだ体を休ませるため眠りについた。
———————
「はー」
俺は部屋へと戻り一人ベッドに横になりながら大きくため息を吐く。
『早速やらかしたのである』
『自分から目立ちにいってた様なもんだぜ』
うるせえ。今反省してんだよ。それにあのおっさん今考えると、俺に気付かれないように挑発の魔法まで使ってやがった。あれも研修の一環だったんだろう。
「はー」
『ふむ。お主精神が体に引っ張られているのである。昔のロイならばあの程度の挑発防げたのである』
『昔からわざと挑発に乗ってることの方が多かったけどな!』
慰めをありがとよ。けど、目立っちまったのは事実なんだよなぁ。
ウロボロスはもう少し俺に優しくしろってんだ。励ましの言葉とかねえのかよ。
俺が一人部屋で項垂れているとコンコンと扉がノックされる。
俺はベッドから起き上がり襟元を正し返事をする。
「ロイ君。我々も戻りましたので呼びに来ました。その様子ですと、あまりうまくはいかなかったようですね」
「あはは…わかりますか?」
ハリスさんは一つ頷くと優しげな笑みを浮かべ手を叩く。
「人生なんてうまく行くことの方が稀なんです。君はまだ若い。失敗を重ねていく事も大切ですよ。さぁ。カイル様に報告に行きましょう。食堂でお待ちですよ」
「は、はい!」
なんていい人なんだ。これからも着いていきます!ハリスさん!
『単純である』
『先が思いやられるぜ…』
———————
「…それで。早速問題を起こしたわけか」
「…はい」
俺たちは今食堂で食卓を囲んでいる。晩飯時には少し早いからか店内は少し落ち着いており、カイルの淡々とした声は余計に刺々しく聞こえる。
「お前は、穏便に」
うっ
「つつが無く」
うっ
「冷静に」
うっ
「不都合なく」
うぅ
「いつも言ってるよな?」
ぐぅ。
『ぐうの音は出たであるな』
上手いこと言ってる場合じゃねえんだよ!
「すみません…」
カイルは大きな、それはもう店内の全員に聞こえるほどに大きなため息を吐く。
「こちらが上手くいけば、お前問題を起こす。俺が良い気分のまま事を終わらすことは出来ないのか」
俺は頭を下げながらハリスさんとアヤメに助けてくれと視線を送るが二人は黙々と食事をしており一向に目が合わない。
二人ともそんなに食事にだけ集中した事ないのに…
「聞いてるのか!」
「聞いてます…」
「明日もギルドに呼ばれてるんだろ。この件はお前が自分で解決しろ。こっちも予定が立て込んでるんだ」
「…かしこまりました」
そう言ってカイルは食事を続けた。
『怒られたであるな』
『ロイにキレるなんて命知らずもいいとこだけどな』
命知らずも何もおれは主人に歯向かう気はねえよ。それに今回はどう考えても俺がやりすぎたわけだしな。
明日は…考えるだけで飯がまずくなるからやめよう。
『そうやって考えなしに動くからカイルは怒っているのであろう…』
あー。何も聞こえないね!
食事を終え俺が部屋で頭を悩ませているとコンコンと扉がノックされる。
ハリスさんか?
「今開けます」
俺が扉を開けるとそこに立っていたのはアヤメだった。
俺とアヤメの間に沈黙の時間が訪れる。
「えっと。良かったら中入ります?」
俺が沈黙に耐えきれずそう提案すると、コクリと頷き部屋の中へ入った。
部屋へ入るなり、この部屋一番の特等席であるベッドへ腰掛けるとじっと俺を見つめた。
俺も立ってるままじゃ落ち着かないのでイスをアヤメの対面に持っていき座る。
「元気出せ。試験管に勝つなど大したもの」
突然口を開いたかと思えばなんとそれは慰めの言葉だった。
普段から無口なアヤメがわざわざ慰めの言葉なんて言うと思っていなかった俺は目をまん丸にして驚いてしまう。
「あ、ありがとうございます」
俺が感謝の言葉を口にすると、その態度に満足したのか二、三回頷くと立ち上がり部屋から出ようとする。
「アヤメさん?それだけ言いにきたんですか?」
扉のノブに手が掛かり部屋から出ようとするアヤメを慌てて引き留め俺はそう聞いた。
すると、アヤメは首を傾げこともなげに答える。
「それ以外にあるか?」
そう言って颯爽と部屋から出て行った。
『あれが、クールビューティというやつであるか』
『いや、あれは不思議ちゃんだろ』
お前らそれ以上は辞めとけよ。
それにしてもアヤメが俺のことを気にかけているとは思わなかった。
でもそれのお陰で少し気が楽になったのは事実だ。アヤメには感謝しないとな。
『実際なにも解決していないのであるがな』
それでも良いんだよ。何とかなるだろ。今までもそうやって生きてきたんだ。今更策謀なんて性に合わねえよ。
『それでこそロイだぜ』
サタンは諦めたようにため息を吐き、ウロボロスは空中でクルクル回りながら笑っている。対照的な2人を見ながら俺は明日のために早めにベッドに横になる。
その様子を見たサタンから何か小言を言われてる気がするが、それを良い子守唄にしながら俺は眠りについた。
最強剣士の転生先は神童と呼ばれた少年の幼馴染でした。 非生産性男 @dobu-gami
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