マイノリティーとマジョリティーの対立が解けるヒントが隠されている物語。

近未来の超能力ものというと、選ばれし者として描かれ、その恍惚と悲哀に押しつぶされそうになる主人公とその悲劇…という一昔前の固定イメージがあって、ちょっと重くて好きじゃないかもしれないという先入観がないわけではありませんでした。
が、そんなクソ先入観は、ものの見事に、とても気持ちよく裏切られました。

家庭の温かさを知らない女子高生と、ハードボイルドテイストを持つ研究者と、影のある公務員と……。登場人物たちが少しずつ動きを加速していくにつれ、物語は思わぬ方向に進んでゆき、次の話が待ち遠しくてたまらなくなりました。
「超能力」というアイテムが核にあるとはいえ、登場人物たちそれぞれの精神や愛や人生観の変化と成長の物語でもあります。
そして、かわいくて素直でやさしいけれど一本筋が通っていて、かしこいのに茶目っ気もある少女は、作者の理想の女性像、あるいは作者自身の姿が投影されているのかもしれません。
彼女の周りの人々を本人の気づかぬうちに温かな空気で包み込んでいく主人公の姿と、最終的には巨悪も極悪人もいない結末には、少し物足りなさを感じる方もあるかもしれません。
しかし、読後感のこの爽やかさとほのかな温もりは、コロナで閉塞した中、ジワジワと心をむしばむ鬱屈した気分を、パッと晴れやかにしてくれました。
未来の姿は決して暗いばかりではない、人類はもしかしたら捨てたもんじゃないかもしれません。

凛とした精神を持つ志高き狼たれ、されどその心にはやさしい春風をまといたまえ。
そんなメッセージが心にしみました。

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