第155話 開戦


『では、そろそろ始めよう、至福の時を……』


《ラデュ・オン=バーン》が両手を広げると、一行の目の前に光のカーテンが出現する。


『これは我が認めた者以外は通れない障壁だ。さあ我に挑む勇ましき者よ、障壁をくぐるのだ!』


《ラデュ・オン=バーン》は待っている。

 そして、目の前の強大な敵を倒せば、自分達の世界へ帰れる。

 ゴールは目の前だ。

 

 しかし、足が震えて動かない。

 皆帰りたいと願っているが、どうしても一歩前へ踏み出す事が出来ない。

 それ程までに《ラデュ・オン=バーン》が放つオーラは、強大で、威圧的で、ただただ恐怖を抱く事しか許さないものだった。

《遊戯者》と比較できない程の圧倒的な強者感に、怯えてしまっていたのだ。


 ショウマ以外は。


 ショウマは一歩足を前に出し、歩みだした。


「しょ、翔真!?」


 リョウコが叫ぶ。

 だが、ショウマの歩みは止まらない。

 そして、光のカーテンをくぐる。


「翔真、勝てないよ、あいつには勝てないよ。わかっちゃうんだ、あれは強すぎるって……」


 職業を得たおかげで第六感も強化されているリョウコは、怯え切った表情をしていた。

 勝てないと諦めきっていたのだ。

 しかし愛しのショウマが躊躇いも無くカーテンをくぐった。

 その事実にリョウコは信じられなかった。


「翔真……私、死にたくない。翔真にも死んで欲しくないの。だから、もうさ、この世界で――」


「悪い、それは出来ない」


「な、何で……」


「決まってるだろ?」


 ショウマはリョウコに視線を向ける。


「俺が……いや、俺達は勝つからだ」


 そして、にかりと笑う。


「怖いよ、ああ怖いさ。でも、この世界で出来た友人達が命を賭けてここまで連れてきてくれたんだ。それに俺は応えたいし、皆で地球に帰りたい」


「でも」


「俺は、一人でも戦うぜ。戦って勝って、皆を連れて帰る」


 ショウマは剣を抜く。

 そして切っ先を《ラデュ・オン=バーン》に向ける。


「っつぅ訳だ《ラデュ・オン=バーン》。俺は一人でもあんたに挑んで、斬り伏せる!」


『嗚呼、嗚呼、嗚呼!! 素晴らしいぞショウマ・イガリ!! 我は今、とても感動している!! 実力は我が望むものではないにしろ、その心意気は既に強者よ!! 我は敬意を以て、貴殿――いや、ショウマ殿と戦おう!』


「……あんたとは話が合いそうで仲良くなれそうだが、申し訳無い。あんたを倒さないと俺の目的は達成されないみたいだからな、遠慮なく行かせてもらうぜ!!」


『ショウマ殿、来るがいい!!』


 二人は戦おうとしている。

 しかし、ここで待ったが入る。


「年下の翔真さんが私より遥かに素晴らしい勇気を見せているのに、年上の私がすくんでしまって指を咥えて見ているだけ、というのは格好が付かないですね」


 カズキが刀を抜きながら歩き出し、カーテンをくぐった。


「一対一に水を差すようで申し訳御座いません。ですが、私も元の世界に帰りたい一人です。この勝負に乱入させてもらいます」


『ふむふむ、よいよい。我は質の良い戦いを求めている。貴殿が加わるのであればより素晴らしいものになるであろう! 許可しよう!!』


「ありがとうございます。さて、翔真さん。一緒に敵を斬り伏せましょうか」


「……もうビビってないのか?」


「正直まだ、ですね。ですが、貴方と一緒であれば問題はないですよ」


「そうか、心強いぜ!」


 そんな二人の姿を、後ろから見守るのは、今だ動けずにいるリョウコ、チエ、タツオミだった。

 二人の背中、特にショウマの後ろ姿は見ているだけで勇気づけられてくる。

 頼りになるのだ。

 まさにリーダーであり、ショウマから聞いていたゲーム内の主人公である《勇者》そのものであった。

 きっと彼も怖い筈なのに、勇気を奮い立たせて《ラデュ・オン=バーン》と対峙しているのだ。


(ああ、私はそんな翔真の事を、心から大好きなんだ。翔真の隣にいたいんだ)


 リョウコは、いつの間にか光のカーテンをくぐって、ショウマの隣に立っていた。

 本当に無意識だった。


「……涼子、怖くないか?」


「怖いよ、めっちゃ怖い。でも、私は翔真に守られるお姫様でいるつもりはないよ。私はいつまでも、貴方の隣で共に歩んでいきたいの」


「……心強いよ」


「うん」


 リョウコは刀身が紅く光るダガー二本を念動力で浮かせ、臨戦態勢に入る。


「……達臣、行こ」


「だね。僕達も帰る為にここまで来たんだからね」


 チエとタツオミは手を繋ぎ、前に出る。

 そして光のカーテンをくぐって臨戦態勢に入る。


 ショウマは二人が参戦した事を確認すると、ふっと笑い《ラデュ・オン=バーン》に詫びた。


「すまない《ラデュ・オン=バーン》、どうやら全員であんたと戦う事になった。卑怯だと軽蔑するかい?」


『いやいや、むしろ元から望んでいた展開よ!! これでようやく、我と対等になったのだからな!!』


「どんだけ強いんだよ、あんたは……。さて、何度も水を差して申し訳なかった、今度こそ開戦だぜ!!」


『うむ、己の全てを我にぶつけてみよ!!』


 ついに、戦いの火蓋は切って降ろされた。

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田舎者弓使い、聖弓を狙う ふぁいぶ @faibu_gamer

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