第154話 《空に道を造る者 ラデュ・オン=バーン》


くうに道を造る者 ラデュ・オン=バーン》。

 その全貌が明らかになった。


 成人男性の身長と同じ位の直径の球体に、青白く光る細長い腕が左右それぞれから生えているのだ。

 しかしその球体が異様過ぎた。

 球体に映るは、まるで宇宙であった。

 目を凝らして良く見てみると、夜空の星のような光が無数に散らばっており、所々に銀河系のような光り輝く渦すら見える。

 そんな疑似的な宇宙の中に、それらを監視するかのような八つの目がまばらに浮かんでおり、不気味さを増していた。

 左右の腕に関してはやせ細った腕なのだが指先が尖っており、引き裂かれたらひとたまりもない程の鋭さが見るだけで分かる。

 不気味、そのものである。


 そんな風貌の彼は、地面から少しだけ浮遊しており、脚は必要としないようだ。


『ようこそ最深部へ! よくぞ我が自慢のダンジョンを乗り越えやってきてくれたな、勇ある者よ!』


 表情はわからないが、八つの目が細くなり、若干興奮気味とも言える嬉しそうな声であった。


『我は待ち望んでいたのだ、貴殿らのような実力者が我に戦いを挑んでくれるのを!!』


 声のトーンが一段階上がる。


『嗚呼、楽しい……楽しいぞ! 我の感情が《楽しい》で埋め尽くされている!! これから起こる貴殿らとの戦いを想像すると《楽しい》で身体が打ち震えそうだ!!』


《遊戯者》によって徹底的に《楽しい》という感情を叩き込まれた彼は、その身体――球体――を文字通りぷるぷると震わせている。

 しかし全身から禍々しい程の何かが発せられており、リュートら一行は声も出せずその場から動けないでいた。


《遊戯者》とは比べ物にならない程の禍々しさ、そして肌で感じる強者のオーラ。

《ステイタス》によって得た強力なスキル、カズキのスキルで得た職業、そして道中で得た強力な武器――それらをフル活用しても届き得るかどうか怪しかった。


(……やべぇ、すっげぇ怖い)


 ショウマは内心恐怖していた。

 足が震えている。

 それはカズキも、リョウコもチエもタツオミも同様だった。

 顔は青褪めており、恐怖の表情が浮かび上がっている。

 勝てるだろうか。

 そんな心情がふと浮かんで弱気になってしまう。

 が――


「何今更びびってんだべか? さっさと斬り捨てて来い」


 異世界で出来た初めての友であるリュートが、ショウマの背中を強めに叩く。

 リュートは、一切恐怖していなかった。

 しかも微笑みを浮かべて、まるでショウマの勝利を確信しているかのような視線を送ってくるのだ。


(……まだまだ勝てないなぁ、男として)


 異世界の友人は、男として器量も度量もある。

 ただの顔面しか取り柄の無いイケメンではないのだ。

 密かに男として模範にしていたショウマとしては、まだまだ彼の背中に追いつけそうに無いと感じた。


(うっし、やるぞ)


 ショウマは両頬を挟むように両手で同時に強めで叩く。

 ばちんと良い音がダンジョン内に響き渡る。

 すると、不思議と恐怖心が消え去った。

 代わりに程良い緊張感が生まれる。

《ラデュ・オン=バーン》も、そんなショウマの表情を見て、感嘆する。


『ほほぅ、ここに訪れた人間達は皆、我を見て恐怖していたのだが……。確か貴殿はショウマ――と言ったな? 失礼、貴殿達の事はダンジョンに入る前にある程度の記憶は拝見してしまっていた』


《ラデュ・オン=バーン》は謝罪をして言葉を続けた。


『ショウマ、貴殿は一瞬恐怖したが立ち直った。むしろ心地よい闘志を我にぶつけてきている。いい、実にいい。素晴らしい戦いになるであろう!!』


「喜んでいる所悪いけど、俺はあんたと戦う事が目的じゃない。俺は、俺達の世界へ帰る事が目的だ。どんな汚い手を使ってでも、絶対にあんたに勝ってやる!」


『ふふふ、戦いは生き残った者が勝者だ。どんな搦め手であろうと卑怯等と罵る事はしない器量は持ち合わせているつもりだ。故に人間達よ、死力を尽くし、知恵を振り絞って見事我を倒してみよ!! 我は、そんな強者との戦いを望んでいる!!』


 ただし、と《ラデュ・オン=バーン》は付け加える。


『ルールは設定させてもらう。なぁに、とても簡単なルールだ。我と戦う資格を持つのは《ジャパニーズ》の面々とカズキのみ。他の者が戦いに介入した場合、罰則を与える。罰則の内容は、我の気分次第で変わるので気を付けるべきだ』


 シンプルなルールだが手助けが出来ない。

 しかもどんな罰則が来るかは、その時にならないとわからないという悪質めいたものだった。

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