第153話 ついに


 ショウマのスキルが進化した事で、殲滅力が純粋にアップした。


「喰らえ、《爆裂炎剣》!!」


 ショウマが剣でオーガを切り裂く。

 絶命には至っていないが、炎を纏った刃がオーガの皮膚を裂くと、傷口から赤い光が強くなっているのが視認できた。

 爆発する約五秒前位だろう。


「おらぁっ!!」


 そこでショウマは渾身のヤクザキックをかまし、オーガを吹っ飛ばす。

 するとオーガの傷口から大爆発が発生し、多くの魔物を巻き添えにして屠る事が出来た。

 進化前の《爆炎剣》は小さい爆発だったので、このような戦法は取れなかったが、進化した事によって殲滅戦でも重宝する魔法剣となった。


 だが、ショウマが活躍すればするほど消耗してしまう。

 その為適度に後退させて他のメンバーで道中の敵を殲滅していく。

 先頭はエリーとリュートのツートップ。

 この二人はすぐに敵を発見してくれるし、リュートに至ってはサーチアンドデストロイを一瞬でやってのけてしまうので、労せず階層を進む事が出来ている。

 しかし敵も強くなってきている。

 上の階層での中ボスであったオーガやゴブリンキングが平気で雑魚として出てくるし、途中でギガンテスと遭遇する事もあった。

 苦戦するギガンテスも、流石に多人数でタコ殴りをすれば瞬殺である為、そこまで時間を無駄にする事はなかった。


 順調に進んでいるのだが、それでも一つの階層の広さが尋常ではない。

 しかもなかなか下への階層に繋がる階段も見つけにくい。

 時間は無情にも流れていき、五十七階層に辿り着いた頃には残り時間は、たった一時間しか残されていない。

 これは非常に不味い状況で、一階層に使える時間は長くて三十分未満である。


「皆、消耗を気にしていられなくなった! ショウマ達も含めて全力で殲滅! エリーとリュートは空気の流れを読んで階段を見つける事に注力してくれ!!」


『応っ!』


 ガンツが皆に指示を出し、皆が応える。

 ショウマ達 《ジャパニーズ》も消耗を抑えるとか気にしている時間の余裕は全く無い。

 全力で立ちはだかる敵は滅する。

 エリーとリュートも、空気の流れを読みつつ近くの敵を排除していく。


 そして残り時間四十分という所で、運良く階段を発見し、駆け下りて五十八階層へ辿り着く。

 だが休む暇はない。

 一行は再び全力で走り始める。


「……皆、こっちだべ」


 スキルも無いのにこういった場面ではメンバーの中で断トツの能力を持っているリュートが、素早く進行指示を出す。


 が――


「空気の流れが、別れてるだよ……」


「……だねぇ」


 並んで現れた二つの分かれ道。

 リュートもエリーも両方に均等に空気が流れており、分かれ道手前で足を止めてしまった。

 二分の一の確率で外れてしまい、無駄に時間を食ってしまう。

 一行に緊張が走る。


「ガンツ、オラから提案だべ」


「何だ?」


「左の方が、敵の気配があるだよ。もしオラが超常的存在の立場なら、時間を稼ぎてぇから正解の道に敵をわんさか配置するだよ」


「……成程、つまり左が正解の可能性が高い、か」


「……確証はねぇけんど」


「悩んでいても仕方ない。リュートの進言を採用する! 各自、最大火力で敵を倒す準備だけはしておいてくれ! ショウマはあの切り札以外を使ってくれ。行くぞ!!」


 リュート、エリーを先頭にし、一行は左の道を駆け抜ける。

 段々と敵の気配が大きくなっていく。

 そして大きく開けたフロアに出ると、待ち構えていたのはギガンテス二体。

 しかも敵は一行が来るタイミングがわかっていたようで、太い腕を振り下ろそうとしていた。

 だが、流石はリュート。

 ギガンテスの姿を確認すると、一瞬で矢を放つ準備をし、一瞬でギガンテスの目に照準を合わせ、射る。

 漆黒の弓から放たれた矢は、まるで流れ星のように銀閃を描き、そのままギガンテスの瞳に着弾。

 もう片方のギガンテスには、エリーが素早く敵の足元まで駆け抜け、右足の親指をナイフで裂く。

 ギガンテス二体は不意の激痛にたまらず攻撃を止めて、悶え苦しむ。


 ガンツはこの好機を見逃さない。


「全員、総攻撃ぃっ!!」


 二つの《エクスプロージョン》が、ギガンテス一体ずつに発動され、大爆発が巨体を焼く。

 爆発が収まった瞬間、各々が得物を持って最大火力の攻撃を叩き込む。

 傍から見たらただのリンチである。

 やがて、二体は何も出来ぬまま絶命するのだった。


 そのまま勝利の余韻に浸る事なく走り出し、ついに下に降りる階段を見つけた。


「タツオミ、残り時間は!?」


 ガンツが叫ぶ。


「残りは八分!!」


「最後の階層がボス部屋だけなのを祈ろう!!」


 もし、最終階層と思われる五十九階もダンジョンであったなら、とてもではないが時間は間に合わない。

 一行は素早く階段を降り、五十九階の全貌を確認する。

 すると、一本道がずっと続いている階層であった。


 扉は無い。

 先は暗くて確認が出来ない。

 兎に角進むしかない。


 一行は走り抜ける。

 残り時間は五分。

 

 大分走っているが、まだ先は見えない。


 残り時間は二分。

 まだ一本道は続く。


 残り一分。

 もうダメなのか。

 そう思った時であった。


 ついに、ついに大きな部屋に出たのだ。

 その中央にたたずむのは、巨大なシルエット。

 恐らく、このダンジョンのボスだ。


『よくぞここまで辿り着いた、人間達よ。我はとても楽しい気持ちになっているぞ!』


 まだはっきりとした姿が見えないが、超常的存在が嬉しそうに話し掛けてきたのだった。


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