(4)


「考えたんだが、今度じっくりとお前たちの話を聞かせてくれ」

「オレたちの話?」

「ああ。お前たち《心喰い》の話だ」

「なんで?」

「今度の戯作に出すつもりだ」

「え?」

「そんな嫌そうな顔をするな。考えてもみれば、これほど面白い題材もないのだと気付いてな」

「ヒトを飯の種にするつもりかよ」

「今更だろ?」

「確かに今更だろうけど……」

「嫌か?」

「嫌っていうか……」

「私も出るぞ?」

「え?」

「私も出る。《心喰い》と旅する戯作者の物語」

「まんまじゃん」

「だから、ネタに困ることはない」

「だろうけどさ」

「嫌か?」

「別に。嫌じゃねぇよ」

「そうか」

「?! 今、笑ったか?」

「まさか」

「いや、絶対に笑った!」

「だとしたらそれは君が私の傍にいてくれるお陰だな。と言うか――」

「なんだよ。いきなり黙り込んで」

「いや、今ふと思ったのだが、私の力で君から私の心を取り戻すことが出来るのかもしれないのだと思ってな」

「え?」

「そうなると……どうなるんだ? 消えるのか?」

「消されるのか?!」

「それは嫌だな」

「オレだって嫌だよ!」

「だったらやめておこう」

「是非ともそうしてくれ」

「そうしよう」


 他愛のない会話を交わしながら二人は歩く。

 片や、命と引き換えに心を失った戯作者。

 片や、人の心を喰らって人になった妖。

 二人の仕事は仕事にあらず。

 戯作のネタ集めと称して、心に苦しむ人々から心の一部を貰い受けること。

 その後に起こる出来事には一切責任を負うことはない無責任なもの。

 それでも人々は噂を聞きつけ、二人の元へと足を運ぶ。

 依頼料の代わりの食事とネタを引っ提げ、今日も今日とて誰かが訪れる。

 話の内容は他愛のないものから深刻なものまで多岐にわたる。

 語り終えた後には憑き物が落ちたようにさっぱりした顔で帰っていく。

 ある意味では人助け。

 しかしこれは、人助けと言って良いものではない。

 結果的には救われているのかもしれないが、あくまでもこれは《心喰い》。

 欠けた心の不具合は、いつか必ず訪れる。

 それは、心を失い人ならざるものと認識される戯作者と、人の身と心を得た《心喰い》が行う《心喰い》。

《心喰い》は忠告する。本当にいいのかと。

 それを受け入れるのは人の方。

 それをネタにするのが戯作者佐倉。

 決して売れる戯作ではないにも関わらず、一部根強い読者を抱える戯作者は、売れぬと分かりつつ筆を走らせる。

 失った《心》を書き留めるかのごとく。

 そこに人の《心》を生き付かせるかのごとく。

 そして戯作は綴られる。


                                        了

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欠落戯作者のネタ集め 橘紫綺 @tatibana

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