もし逆なら〝幸せの絶頂〟だったはずのもの

 なんでもそつなくこなす優等生タツミくんの、人知れず抱えた意外な悩みにまつわる物語。

 不気味な不安感が魅力の、現代ものショートショートです。
 初めのうちはなんの変哲もない、ちょっとした進路相談の風景なのですけれど、その内容と彼の話しぶりが奇妙な真剣味を帯びてくる、その感覚に息を呑む作品でした。重たい不安感にじわじわ絡め取られる感じ。

 なにより魅力的なのは読後の余韻、この心がぞわぞわするかのような後味です。
 単純に不気味というよりは、結局どこまで本当だったのか断定できないことの醸す面白み。
 到底ありえない内容の相談であるが故に、それは嘘や冗談の類だったと「思いたい」心と、でもおそらく真実であろうという予想の、そのふたつが内心でぶつかり合う感覚がとても好きです。

 彼の内心を想像したときの、「正直まるで想像もつかないけどでもゾッとする感じ」が素敵な作品でした。

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