第3話

「ただいまー」


 学ラン姿のゼロ介が玄関のドアを開けると、妹のゼロ美が仁王立ちで待ち構えていた。


 ぴょこんと可愛く跳ねたツインテールに黄緑色のワンピース、保健の先生のような白衣を羽織っている妹は、兄の姿を確認すると腰に手を当て足を大股に開く。


 それからすうううと息を吸い込み、


「お兄ぃの分際で私を罠に嵌めようなんて、100年早いんだからっ!」


 大きな声を張り上げた。



   ~~~



 天才少女発明家は兄のアレコレに興味津々!


 第三話



   ~~~



「……は?」


 バタンと背後でドアが閉まる音がする。ゼロ介は靴を脱ぐのも忘れて思わず聞き返した。


「お兄ぃの分際で私を罠に嵌めようなんて…」

「いやいや聞こえてるからっ!」


 何だか最近、こんなのばっかだ。


「何だよ罠に嵌めるって、意味分かんねーし」


「フン、しらばくれちゃって」


 ゼロ美は一度ツンとソッポを向くが、直ぐに目線を戻してビシッとゼロ介を指差す。


「とにかくお兄ぃの浅知恵なんてこの程度なんだから、これに懲りたら大人しくしてる事ねっ!」


 それだけ言い残すと、ゼロ美は踵を返して悠然と去っていった。


   ~~~


「あイタっっ!」


 ゼロ美は四つん這いでのベッド下の捜索を諦めて、中から這い出ようとする。しかしそのとき目測を誤って、ベッドの縁で後頭部をしこたま打ちつけた。


「くー…」


 白衣越しの可愛いお尻を突き出しながら、ゼロ美は涙を堪えて両手で後頭部を押さえる。やがて上体を起こし座り込むと、兄の部屋全体を見回した。


「うーん…何処にも無いなー」


 それから最後に、机の上にあるノートパソコンと、音漏れにも強いオーバーイヤータイプのヘッドホンへと視線を移す。


「やっぱり、そこか…」


 ゼロ美はつまらなそうに呟くと、お尻をパンパンと払いながら立ち上がった。


「全く…兄のお宝を探すと云う妹の楽しみを奪うなんて、これもIT化の弊害ね」


 ノートパソコンを開き電源を入れる。すると然も当然のようにパスワードを要求してきた。


「フフ、こんな事もあろうかと…」


 ゼロ美は自信満々で微笑む。


 そして白衣のポケットに手を入れると、USBケーブルが付いたトンカチ型の端末を取り出した。


「防壁破壊端末ー」


 何処かで聴き覚えのあるBGMを背負いながら、トンカチ型端末を高々と掲げる。


 目的のPCとこの端末をケーブルで繋ぐと、まー何やかんや自動演算で、セキュリティを突破すると云う恐ろしい発明品だ。


 しかも性能テストは実証済み。天才少女発明家の辞書に「失敗」なんて二文字は無い。


「お兄ぃ如きがこの私に、隠し事なんて出来ないんだよ」


 ゼロ美は壮絶な笑みを浮かべると、ゼロ介のノートパソコンにケーブルを繋ぐ。


 そうして待つ事数十秒…ゼロ美の視界にホーム画面が映し出された。


「結局、生年月日って…お兄ぃ、セキュリティ意識が低すぎるよ」


 思わず呆れ返って溜め息を吐く。


「このままじゃ誰に見られるか分からないし、変更しといてあげよーかな…」


 そのまま無意識にキーボードに手を伸ばした瞬間、天才の頭脳に雷鳴が轟いた。


「ハッ…これってブービートラップなんじゃ…?」


 このままパスワードを変更したら、私がこのPCに触った事がバレてしまう。妹の優しさにかこつけた、何と恐ろしいトラップか…


 ゼロ美は咄嗟に両手を引っ込めた。


「フー危ない危ない。私じゃなかったら引っかかってたよ」


 言いながらマウスを操作し、目当てのドキュメントを探していく。


「お兄ぃにしては頭を使ったようだけど、相手が悪かったね……あ、あった」


 そうして見つけた幾つかの動画コンテンツ。その中のひとつに、ゼロ美の視線が奪われた。


 どうやら学校の保健室が舞台で、保健の先生がヒロインのようだ。そしてそのヒロインの服装…


 ゼロ美は自身の白衣をギュッと握りしめた。


「お兄ぃはこの動画…どんな風に観てるんだろ?」


   ~~~


「再び、風景溶け込みウェアー」


 何処かで聴き覚えのあるBGMを背負いながら、ゼロ美は右手を高々と掲げた。


 スク水は既に着用しているため、今回はエアーでの演出である。


 家族が寝静まる、日付が変わる寸前の就寝時間。トイレに入ったゼロ介の隙をついて、ゼロ美は薄暗い部屋に侵入した。


 もしかしたら、今日は空振りかもしれない。


 しかしゼロ美の心臓は、早鐘のように鳴りっぱなしであった。


 かくして部屋に戻ったゼロ介は、部屋の電気も点けずにPCを立ち上げ、ヘッドホンを装着する。


 膝立ちで真横から画面を覗き込むゼロ美に気付きもしないで、ゼロ介はマウスを操って保健室の動画をクリックした。


 音は全く聞こえない。


 しかし白衣を振り乱し淫らに腰を振る女性の姿に、ゼロ美の視線は釘付けになった。


 ふと気付くと、兄が股間の辺りをまさぐっている。


 気になって顔を近付けると、そこには今まで見たことのない、そそり立った兄の姿があった。


 自分の顔と同じくらいの長さがある。そのうえ独特の臭いが鼻腔の奥を刺激する。


(変な臭い……だけど、キライじゃない)


 激しく自分自身をしごく兄の姿を、ゼロ美は食い入るように見つめていた。


 そして、その時が訪れる。


「う、出る…ティッシュ」


 ゼロ介は素早く手を伸ばすと、グワッとゼロ美の頭を抱え込んだ。


「えっ⁉︎ …むぐぅ」


 気付いた時には、口一杯に兄のモノが入っていた。


 そして更に、彼女の口の中で兄の姿が膨張する。


(ウソ…まだ大きくなるの⁉︎ コレってもしかして精子出るんじゃ…⁉︎)


 待って待ってそんな奥で出さないでっ!


 嘘ウソ嘘ウソ…んごぉーーーっ!


   ~~~


「ゼロ介、もしかして鼻炎治ったの?」


「は…鼻炎?」


 唐突に母ゼロ江に声をかけられ、ゼロ介は素っ頓狂な声をあげた。


「アンタ鼻炎だから、ティッシュよく使うって言ってたじゃない」


「え、あー…鼻炎、鼻炎ね」


 ゼロ介は慌てたように頭を掻くと、不思議そうに小首を傾げる。


「いやー…いつも通りには、普通に使ってるよ」


「変ねー、何だか最近、あまり減ってないように思うのだけど…」


 母ゼロ江も同じように小首を傾げたとき、


 ガチャン。


「きゃっ⁉︎」


 キッチンの方から大きな音とゼロ美の声が聞こえてきた。


「ゼロ美ー、どーしたのー?」


「ホイップクリームが顔に跳ねたー」


「あらあらー」


 そう言って母ゼロ江がタオルを持って駆けつける。


 するとゼロ美は、口元に付いていたクリームを人差し指で拭ってペロリと舐めた。


「ちょっと甘いかなー?」


「ホイップクリームなんて、そんな物よ」


「そーかなぁ、もう少し苦い方が好みかも…」


 母から渡されたタオルで顔を拭き取ったゼロ美は、無邪気な笑顔で可愛く舌を出す。


 そうして明日からも、ペロっといつもの毎日が続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天才少女発明家は兄のアレコレに興味津々! さこゼロ @sakozero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ