【物語は】
鬼と呼ばれる野獣の見た目の者が産み落とされたまま山に捨てられ、生存本能に従った結果、人も食らうようになる。そこで不思議な現象が起きた。人を食らい続けた結果、人の言葉が理解できるようになったのだ。(もちろん、これを読んでそんなことが起きると信じる人はいないとは思うが、これは物語の設定である。念のため)
そんな鬼はある日、いつものように捨てられている赤子を見つける。人間は鬼にとって食料でしかなかったが、この日は違った。これが鬼にとってのターニングポイントとなる。孤独な鬼は、一体どんな体験をするのだろうか?
【登場人物の魅力】
主人公の鬼は、孤独な生活を強いられていた。その鬼はある女性と子に出逢うことによって情というものが芽生えていく。いつしか人間の気持ちが理解できるようになり、読者はこの鬼がまるで人のように思えるようになる。
人間とはなんだろうか?と考えさせられる構成となっており、この物語には辛い出来事が多い。だからこそ鬼の選択や後悔について読者が深く考え、作者からのメッセージも感じるのだろうと思う。
【物語の魅力】
人の方が鬼なのではないかと感じる物語。鬼が何故産まれたのかというところにも注目したい。孤独だった者が家族を得る。家族とは血のつながりのみで感じるわけではない。家族であろうとも、自分以外の人間は他人である。心を通わせえることが出来るとは限らないし、分かり合いたいと思えるとも限らない。あくまでも、人間は個々の物体でしかない。
そんな中で、種族すら違う鬼とある女性と子が互いに心を許し、家族のように感じ始める。この物語は一般的にイメージをするハッピーエンドとは言えないかも知れないが、”鬼にとっては、幸せな一生”であるという事。
ここに作者の読者へ伝えたい想いや、作者の思想や幸せに対する概念とはどんなものなのかについて考えさせられる物語だ。
【物語の見どころ】
感情を理解していく鬼。そこで産まれていく情。鬼よりも、鬼らしい人間。
では人間とは一体なんなのか、人間らしくあるとはどういうことなのか。鬼は最後まで、女性の連れていた子の幸せを願う。そこに、自分の死の要因となった者に対しての恨みも憎しみもない。愛とは何なのだろうかについても考えさせられる。そして幸せとは何かについても。
人によって幸せと感じられることは違う。ハッピーという言葉は幸せという意味だが、一般的に考えられる”みんなニコニコ”ばかりが、幸せとは限らないという事だ。この物語での幸せとは”充実”や”他の者の幸せ”を自分の幸せとしてることなのではないか。しかしながら、これは一つの解釈でしかない。
あなたなら、この物語を読んでどんなことを思いますか?
あなたなりの答えを見つけて見て欲しいと思います。
是非お手に取られてみてくださいね。おススメです。
短い物語の中で鬼と人が出会いそして鬼の心が変化していく様が見事に描かれています。
「鬼」という存在がこの物語の主軸となっています。
そしてその「鬼」は二人の人との交流により、やがて人へとなっていく。
この一連の流れの描写がとても高クオリティな文章力で描かれています。
人となった「鬼」が山から下りて人の世界に立った時にその目で見たものは「人の中に住み着く鬼」の姿。
果たして本当の鬼とは何なのか。
姿形が人でなければ「鬼」なのか。
それとも「鬼」とは人の心に住み着く見えざるものなのか。
とても深いテーマ性があり、そして考えさせられます。
短い文章の中でそのことを強く訴えかけてくる作品だと思います。
これはただの感動作ではありません!
人としての生き方を問いかけてくる感動作なのです!
人となった鬼が最後に掴んだ幸せ。
なぜ鬼がその幸せを掴めたのか、その答えは読んだ人の心の中に自然と芽生えてくるでしょう。
あなたの「心の中」に鬼はいませんか?
是非皆さんも自分の心と向き合いながら読んでみて下さい!
■いわゆる和風ファンタジーに属するスタイルの作品。形式としては昔話の形式である
■人の世界の理の外側に存在する生命体である『鬼』、当然人間社会の常識など知る由もない。
その鬼の生活テリトリーには、人間の育てきれなかった赤子が口減らしとしてたびたび捨てられる。
言葉と知恵を持たぬ鬼には野山の獣も、人間の赤子も区別はつかない。当然のように赤子の肉を食うて、いつしか鬼は言葉と知恵を身につける。人間の社会を知らぬ鬼はそれが当然のことと思っていた。いつものように捨てられた赤子を食らおうと思うと一人の女性がそれを阻止しようとする。それから鬼と赤子とその女性との3人による奇妙な暮らしが始まる。そしてそれは暖かくも悲劇的な、鬼の悲しい運命の始まりでもあった……
■丹念で精緻な言葉運びが、情感豊かな物語世界をしっかりと作り上げている。ラストシーンまでの流れは単なる安逸なハッピーエンドに終わらせない、とても深みのある読者の心の中に強い印象を残してくれる。とても良質の物語譚だ。
Twitterのタグから拝読しました。アルファポリス様でも掲載されているようでしたが、そちらのアカウントを持っていなかったのでこちらに感想を書かせていただきます。
短編でありながら鬼、伊都、ヒノキの3人の心情が丁寧に表されていると感じました。優しく、また切ない心情に駆られる作品だと思います。
『鬼』という存在が所謂怪物、と言うよりは概念的な存在であるというのも設定として面白いところだと。
あとがきまで読ませていただきましたが、最終的に誰もが悪意のみで動いていたものが居ないという所にドラマを感じます。『誰もが自分目線で最善の選択をしているはずなのに、歯車が噛み合わずに事態が拗れていく』テイストの話が個人的に好みなので、そういった点でもこの作品は好きな作品になりました。