あとがき 新たな狩猟伝承


 昭和43年金嬉老事件、昭和45年瀬戸内シージャック事件、昭和47年あさま山荘事件など銃器を使用した大きな事件が相次いだ。


 昭和52年には射撃指導員制度が導入され、初心者教習射撃が開始されることで、所持に至るまでの手間が増えたことが、減少の一因となった可能性はあるだろう。


 その後も、昭和54年には、三菱銀行人質事件、昭和62年には赤報隊事件、平成8年には北方町猟銃殺人逃走事件、昭和19年にはルネサス佐世保散弾銃乱射事件と続き、その都度銃刀法が改正され、所持に至る過程はさらに厳格化されていきている。


 一方で、既に所持している銃砲所持者にとっても、更新手続きは煩雑化してきているが、銃刀法の規制が厳しくなってもその減少が加速することはなく、緩やかな経年変化をたどっている。


 所持者数の推移から考えれば、入り口の問題が大きいと考えればよいかもしれない。そうなれば、そこに手厚くすることが、問題解決の近道であることは間違いない。

 

 多くの文化の伝承は、見て覚えろという継承様式をとることが多い。職人の世界などは、この傾向が著しく、徒弟制度などにおける教育も基本的には親方のやることを見て覚えるという様式がほとんどである。


 これでは現代において新たな狩猟者を確保、育成することはできない。できないと断言できる背景には、これまでの狩猟者の減少がなによりの証拠である。


 改めて一から狩猟者を増やそうとするならば、従来からの方法は残すとしても、新たな方法を考えるべき段階となっている。誰もが、いつでも、どこでも均一かつ上質の狩猟に関する学習ができるような仕組みを構築していく必要がある。


 海外では、インターネットで狩猟について体系的に学ぶことができるサイトもあり、そこでの学習からライセンスの取得も可能である。


 さらに、外来種対策が進んでいるニュージーランドでは、ハンターは三種類に分類されている。


 一つ目が、レクレーションとして狩猟を行う趣味のハンターで全体の九割を占めている。


 二つ目が、養鹿を行い、シカ肉商売をしたり、牧場主に雇われてヤギやイノシシの捕獲を行ったりしている商業ハンター、三つ目が国の仕事として、外来種対策等の根絶作業などを担っているプロハンターである。


 毎年のシカの捕獲頭数では、趣味のハンターが全体の一割、商業ハンターとプロハンターが九割を捕獲している。


 このような例は、今後の日本における新たな狩猟文化のモデルとなるだろう。


 ワイルドライフマネージメント社が考える新たな狩猟者像は、まさに商業ハンターやプロハンターであり、趣味のハンターとは一線を画すものだ。その育成における教育プログラムは、すでに完成している。


 従来からの狩猟にこだわっていたのでは、個人で銃を維持することもわなを購入することも難しい時代となってきている。こんな時代だからこそ、今までには無かった新たな取り組みが可能でもあるのだ。

 

 佳人らは、その先駆者として、現代狩猟の伝承を目指していくのだろう。

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