あとがき 新たな狩猟伝承

 天田は、英佳のやり方を見ながら、その動きを自分のスキルとするべく、一生懸命に覚えようとしていた。


 先達が後輩に、こうやるんだと言葉ではなく、実践で教えている姿は、先導犬が後継犬を教えるのとなんら変わらない。そこにあるのは、まさに狩猟の伝承なのだ。


 佳人も、英佳のやることを見様見真似で覚えることで、山のこと、犬のこと、狩猟のことを学んできた。しかし、今はそのような姿を間近に見る機会など皆無であり、新たな伝承の様式が必要となっている。


 佳人らは、仕事の手が空いた時には、いろいろな話をする。


 子供の頃に佳人が、囲炉裏端でわくわくしながら聞いた四方山話は、若いスタッフにも受けが良く、時には酒の席で佳人が語り聞かせることもある。


 さらに、これからの日本の狩猟文化はどうなっていくのだろうかという話題も多い。


 文明という言葉は特定の地域や年代に縛られず、普遍的に使用されている。対して文化という言葉は特定の地域、年代、歴史を表す際に用いることが多い。


 また、文明という言葉は、技術・機械・社会制度などの発達も含めるが、文化という言葉はどちらかといえば精神的で、分野・学問・芸術・宗教などの発達や交流に使われる。


 銃猟で使用する火薬や銃は文明の産物であるが、狩猟はまさに文化である。時代や場所に縛られるものであるため、文明のように普遍的に伝承するのは不可能なものでもある。


 日本には日本の狩猟文化があり、それは太古の昔から時代とともに変遷し、現在も変容しつつある。近代を振り返っても日本の狩猟は大きく様変わりしている。


 一例を挙げるのならば、マタギが良い例であろう。


 マタギは、「狩猟を専業とする」ことがその定義とされるものの、現代においては、そのような存在は稀であり、マタギ文化の伝承は途絶えたと言っても過言ではないだろう。


 古くは平安時代にまでその存在を遡ることができるが、日本の東北地方・北海道から北関東、甲信越地方にかけての山岳地帯で、集団で狩猟を行う者たちは、山言葉を使い、クマ、カモシカ、ニホンザル、ウサギなどを獲物として、狩猟を専業としていた。


 現代では、山村の社会・経済環境の変化等により、そのような存在は失われてしまっている。


 さらに、マタギに止まらず、現代では狩猟者は高齢化と減少の一途をたどっている。


 昭和五十年代からその数は減り続け、年齢構成も六十歳以上が全体の六割を占める現状は、野生鳥獣の生息数と生息域が拡大し、被害が発生している状況を考えた時、日本の農地や山林は今後どうなってしまうのだろうかと考えてしまう。


 今、日本は新たな狩猟文化を生み出さなければいけない段階にあるとワイルドライフマネージメント社のスタッフは考えている。


 レクレーションとして狩猟を楽しむという文化を否定する必要はない。ただ、それだけでは日本が直面している課題の解決策とは成り得ない。


 どうしてこのような状況になってしまったのだろうか。

 

 日本における銃器の所持は、極めて厳しい。この規制を理由に挙げる人は多い。


 銃器による事件や事故は、交通事故などとは異なり、大きなニュースとして取り上げられるし、その結果規制がさらに強まるという流れができている。


 佳人たちは、警察庁の警察白書や環境省の鳥獣統計などの資料を調べ、これまでの変遷をデータから確認したことがある。

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