第5章 新たな狩猟者像 第6話
狩猟は、時間や場所、時代背景などの影響を大きく受ける。
南北に長く、起伏に富む島国である日本では、地域によって生息する獲物も異なるし、それを狩る方法も異なるため、北海道には北海道の狩猟方法があり、本州には本州の狩猟方法があるため、理想とする犬の姿はあれども、残念ながら普遍性を求めることはできない。
このような経験を重ねることで、佳人と坂爪の間ではシカ用の犬の姿のイメージが出来上がるはずであったが、二人が出した結論は、シカを捕獲するには犬はいらないだろうということだった。
シカは、人の接近でも逃げ始める。しかもその距離は百から百五十メートルであることも分かった。
人が追うと、その距離を保ちながらゆっくりと逃げてくる。
少人数で行う場合を考えると、五百メートル四方の範囲を確実に囲み、人が勢子となることで捕獲をする方法へとたどり着いた。
シカ探索犬をどう使うか、またどのように訓練するかは、今でも佳人と坂爪との間の課題である。
新たな戦術を考案しながら、いろいろな現場で検証を重ね、改善を繰り返していくのが業務の日常となっている。
現場が異なれば、戦術の修正は必須となる。その現場を見極める力をつけるには経験が必要であることは言うまでもない。
日々がその過程にあり、さらにそこには坂爪や竹山、武井に続く若い世代の力が必要である。
ワイルドライフマネージメント社が目指している実働体の完成形までは、まだまだ時間が必要だろうが、確実に第一歩は踏み出したと言えるだろう。
そのような取り組みに共鳴したのが、フィールドワーカーを育成することを目標としている専門学校であった。
今後、公共事業化される鳥獣被害対策事業は、若い従事者が存在しなければ成り立たない。
狩猟者は確かに、その担い手ではあるが、高齢化と減少は十年先を見通した時には十分な対策を講じることはできないだろう。
そのための第一歩をワイルドライフマネージメント社が踏み出したことは、日本の獣害対策における一つの起点となったことは間違いない。
さらに、連携することとなった専門学校は、これまでフィールドワーカーの育成を目指し、環境系コンサルタント会社へ多くの人材を輩出していた。
そこに、専門的捕獲従事者を育成する必要があるとの認識から、新たに育成機関として始動したのだ。
組織的、計画的に育成される人材は、狩猟の世界においても新たな狩猟者像として位置づけられる存在となるであろうと思われた。
※その一期生たちの成長は、新たな狩猟者像 ~サーパスハンターを目指して~でご紹介したとおりである。
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