第5章 新たな狩猟者像 第5話

 数年の後に、ワイルドライフマネージメント社の求人を見て、専門的捕獲従事者を目指して竹山、武井が応募してきた。


 次第に、スタッフも増え、ようやく体制として捕獲事業に取り組める組織作りが出来つつあったが、ここでの追い風があった。


 鳥獣保護管理法の改正に際して、新たな捕獲を行う主体として法人を位置づけ、都道府県知事がその法人を認定するという認定鳥獣捕獲等事業者制度の創設であった。


 森林組合から転職して五年が経過していたが、その間に坂爪は特例制度を使って十年未満でありながら、ライフル銃を所持するようになったし、竹山も女性ながら捕獲現場で活躍している。


 武井は、佳人のアイディアを基にして警備会社と連携することで、わなの自動通報システムの構築に尽力し、わな捕獲における省力化に貢献していた。


 こうして従来からの狩猟者とは違う入り口から捕獲の世界に入ってきたスタッフは、これまでの常識に囚われず、新しい取り組み方法を模索するという流れを自然と共有するようになっていた。


 イノシシ探索犬の成功に続いて、シカ対策用の犬の在り様については。佳人と坂爪の間でも何度も議論があった。


 一般狩猟におけるシカ猟での猟犬の様子を知るべく、いくつもの大物猟グループを見学し、そこで使われている猟犬の特徴や猟の様子などから理想とすべきシカ用の犬の姿を模索した。


 山中でシカの匂いを探知すると追跡をするのは、探索犬と同じである。そこからの大きな違いは、狩猟者との距離感だろう。その距離を埋めるために、発信機を装着したり、鈴を付けたりしている例があった。


 さらには、鳴くことでその位置を知らせるという特徴をもった犬もいた。このような犬の活用方法は、永続性を求められる狩猟においては極めて優れたものであり、先人たちの知恵を感じる。


 射手の後ろで見学していると、遠方から犬の鳴き声が聞こえる。その鳴き声が徐々に接近してくる緊張感は大物猟の醍醐味のひとつだろう。目前に現れるのは、シカだろうか、イノシシだろうか。


 銃を握る手に力が入る。


 狙いどおりの獣道を猟犬に追われたシカやイノシシが現れる。


 自動ライフル銃や散弾銃から連続して発砲される弾丸をかいくぐりシカやイノシシは命懸けで駆け抜けて行く。


 命中と失中の差は、その一瞬の間で決まる。


 命中率は、概ね十パーセントだろうか。グループ全体で、毎回の出猟時に成果があるのは限られたグループだけであり、多くは十回に三回程度の確率で獲物を捕獲していた。


 その猟の組み立てもグループごとに違いがあり、囲む範囲もまちまちであった。

さらに、北海道では走っているシカを撃つことはない。


 遠方からシカを発見して、気づかれないように接近して撃つという静的射撃が基本である。したがって、シカを追うような猟犬を使った猟法が行われることはない。

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