牛乳を飲むと背が伸びるらしい

タマゴあたま

牛乳を飲むと背が伸びるらしい

「まーた牛乳飲んでんの?」


 からかうように言ってくるのは、俺の幼馴染の桜だ。


「いいだろ。背伸ばしたいんだから」


 そう。俺は背が低い。だから俺は牛乳を飲む。背を伸ばすといったら牛乳だ。


「かわいいから良いじゃん」

「うるさい。その身長わけてくれよ」


 桜は俺とは対照的に背が高い。


「やだよ。この身長は私のものですー」


 桜はべーっと舌を出す。かわいいな。

 コンプレックスなのもそうだが、背を伸ばしたい理由は他にある。


 確か小学生の頃だったかな。その時から桜は俺より背が高かった。ちくしょう。


――――


『私ね、背の高い人が恋人にキスをするっていうシチュエーションが憧れなんだ』

『お前に恋人なんてできるかよ。このデカ女』


――――


 小学生の俺のバカ! なんでそんなこと言っちゃうの!? 「背が高くても桜はかわいいよ」とか言えなかったのか!


 俺は桜が好きだ。


「牛乳飲み終わったんなら帰ろうよ。ていうか、なんで放課後に飲むのさ。お昼じゃないの?」

「これで一日が終わったって感じがするんだよ」

「ふーん」


「お前ってさ、好きなやついるの?」


 昔のことを思い出したせいか、ふと聞いてみたくなった。

 桜は意外そうな顔をする。いきなりこんなこと聞かれたらそうなるよな。


「うん。いるよ」


 いるのか! やばい。座っているのに膝から崩れ落ちそう。


「そっか」


 なんとか平然を装う。


「あのさ、昔のこと覚えてる? 憧れのシチュエーションの話」

「身長差のキスだったっけ? よかったな。お前より背の高いやつが見つかって。そんなやつそうそういないだろ」


 桜は戸惑いの表情を浮かべたかと思うと、急に顔が険しくなった。

 その表情のまま桜の顔が近づいてくる。こりゃ怒鳴られるな。

 俺は観念して目を閉じる。


 額に柔らかいものが当たる。


 不可解な現象に目を開ける。

 そこには桜の真っ赤な顔があった。手で口元を隠して。


 ってことはさっきの感触は!?


「私の好きな人はアンタなの!」

「は!? だって身長差のキスが憧れだって……」

「そうだよ。でも背の高いほうは私。小学生のころから好きだったのに全然気づいてくれないんだもん」

「そうだったのか……」

「で? 乙女にここまでさせたんだよ。たとえ嫌いになっても返事はくれるよね?」

 桜は寂しげな表情を浮かべた。

「嫌いになるわけないだろ! ずっと好きだったんだから!」

「へ? よかったあ……」

 桜はその場に泣き崩れる。

 俺は桜の頭をなでる。


 放課後に牛乳を飲むことはもうなくなりそうだ。

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