獣。


あの時間のなかに溺れていたときのこのとを、思い出したりする。


…というのは嘘で、僕の記憶に蓄積されている欠片は曖昧な輪郭をお持ったものばかり。

箇条書きの現象、あるいは結果。そればっかりが残っている。


”ぼく”の定義を初めて変えた。第二幕の名前を付けた。

それから何度か、二転三転と。どこか靄のかかった世界の中でもがいて。


それから、それから。ぼくは成長せねばならない、と。

うだるような熱に、自己嫌悪を最大限引き出してくれる青空に、

ぼくと、ぼくの神様との決別の未来を見た。


ぼくの神様を殺すのはぼくだと、ぼくだけの誓い。

何度も、なんども。このちっぽけな頭蓋骨の中に押し込まれた脳みその襞の上に、焼き付けるように、


…ただ、息をするということですら思考を占領して、声に苛まれた日々があったことは覚えている。

あのときの僕はこの世界のどこにいたのだろうと、思う瞬間がある。

けれどやっぱり、今だって時折現実からあぶれた狭間に落ちてしまうから。


僕の名前は一体なんだったのか。

それを。一度忘却した。


新しい答えはまだ見つかっていないから、その質問をされてしまったら、ちょっと僕は沈黙する他なかったり。


まだ、人間にはなれていないのかもしれない。

でも誓いを忘れることは今までも、これからも、ない。


そう。

神殺しの時を眈々と待つ、僕は獣だ。

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夜の手帳 落翊 @yunaeve

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