散歩記録。
ぼくはこの世界が美しく見える瞬間が一等好き。
雨上がりの空気が優しくぼくの体を包む。
夜の訪れ。近づくは全てを染めあげる闇色の支配者の足音。
藍に移ろいく空が未だ残る雨雲に灰を滲まされていて、
湿った土の香りと囲む鈴虫の音は夏そのものの色。
藍は数瞬、深まるは紺。
まだ行き交う声と音にけれど染みるは静寂の色。
夜の降臨だ!と、ぼくは嬉しくなる。
耳を塞いでしまえばここだって僕だけの世界。
夜色の青に溺れる束の間。
この時間だってぼくだけものもので、
草木が日の灯りを求めるように夜色を浴びてこそ羽を広げるぼくの世界に、音の要らない喝采にほくそ笑んだ。
ぼくだけが知る、ぼくの飼い慣らす獣の形は虚だから。
ぼくの主、ぼくの神様、そしてぼくの虚像。
お通りだと言葉を食みながら空気を切ればぼくこそが王だ、
愛してやまない夜に高らかとそう告げてやろう
明日も、変わらずぼくの世界を愛せるように。
だから、真に夜を愛する者は朝など恐れはしない。
神の死に絶える瞬間だって目を逸らしやしない。
永久にて不変、だから恒常に思考を。
この時この瞬間、ぼくはきっと一等に幸せ者だ。
だから、どうか終わりある夜に花束を。
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