第10話 運命の香が導く先へ
そこまでは良かったのよ。
うん、そこまでは。
でね、なんで今、香坂さんが私のベッドに一緒に寝ているかなんだけれどね。
誓って、何にも無かったのよ。
いや何も無かったってのも、ちょっと寂しい気がするんだけどね。
ホテルまで送ってくれた、香坂さん。
「出張延長しよう。もう一か所行きたくなっちゃった」
素敵な笑顔でニッコリして、このホテルへ移ってきたわけ。
で、夜タイガービール持って来て、一緒に飲もうって言って。
飲んでしゃべっていたら、実はすっごくフランクで話しやすい人で、意気投合して、
「今回の企画がんばろー!」
って乾杯しまくって。
気づいたら一緒に寝てた……
はあー
まあ、いいか。何もなったんだし。
その時香坂さんの携帯が鳴った。
「うーん、まだ眠い」
おこさまか!
「秘書の柏木君だと思うから、テキトーによろしく」
「なんで私が」
「大丈夫、大丈夫」
「えー!」
とりあえずスワイプすると、イケボな秘書の声。
「あのーこちら
「ああ、新しくスカウトされた方ですね」
え! もう転職の話が伝わっているんだ。仕事早いな。
昨日の話が冗談では無かったことがわかり、ほっとする。
「初めまして、秘書の
え!
それって、だめじゃん!
繋ぎにも尻ぬぐいにもなって無くないですか?
想像の斜め上を行く柏木さんの自己紹介に、心の中で突っ込んだ。
この会社大丈夫だろうか?
「社長にお伝えください。以後の滞在は有給休暇扱いで自費に切り替えますのでそのおつもりで。早々に社長のお守りで大変だと思いますが、よろしくお願いいたします」
柏木さんはそう言うと、こちらの返事も聞かずに切ってしまった。
本当に私の転職は大丈夫なのだろうか?
不安になったけれど今更クヨクヨしてもしかたない。
早速、香坂さんを叩き起こした。
「涼香ちゃん、今日はジュロング・ウエストにあるソウワン・ポッタリー・ジャングルって言うプラナカン陶器の窯元に行こうね~」
目をこすりながら言う香坂さんの言葉を聞いて、私のテンションが跳ね上がった。
「行きたい!」
East West Line の ブーンレイ駅からタクシーで十分ほど。
森の中の窯元は、圧巻の品揃え。
パステルカラーの陶器がところ狭しと並んでいる。
うわー綺麗。
夢中で見つめる私を見て、香坂さんが言った。
「ねえ、どの色がいいかな。君がこの間言っていた陶器の香水入れ。模様とか色の組み合わせとか。意見が聞きたいな。できれば今日、香水瓶の発注ができるか聞いておきたいんだよね」
「え?」
初めて会った日に、酔いに紛れて言った私のアイデアをちゃんと聞いていてくれたんだ!
しかも、早速その打ち合わせのためにここに来ていたなんて!
小さな意見でもちゃんと聞いてくれる人。
やろうと思ったら即行動できる人。
香坂さんは柏木さんが言うように、常識とはちょっと離れた行動をする人なのかもしれない。でも、真剣に他人の話を聞いてくれる人なのは確かだ。
そっか……私、この人の下で仕事ができることになったんだ!
じんわりと嬉しさがこみ上げてくる。
傷心旅行は再生旅行になった。
でも、私の心は『大吉』と叫んでいた。
完
香る恋 旅×彼=運命♡ 涼月 @piyotama
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