子供を持つ親、愛するパートナー、慕う親をお持ちの方ならよく分かると思う。
愛する人の命が失われるとき、どんな方法でもいい。生きて自分の側にいて欲しいと──。
SFの世界ではあるのだけれど、現実味があります。それが端正な文章と幻想的な世界観と相まり、短いながらもぐいぐい引き込まれます。
ラストは読んだ人それぞれの感じ方があるでしょうが、主人の血が流れる二人の微笑ましい描写に、希望を感じました。命は途絶えることなく、繋がっていく。葉が落ちても、土の養分となり、木に取り込まれ、また新たな葉となる。そのように命と想いは繋がっていく。
大切な人を亡くした朔弥は孤独かもしれませんが、自分の体の中に彼が存在しているというのは、ある意味幸せかも。
愛すること、生きることを考えてみたい。落ち着いた洗練された文章に触れたい。そんな方におすすめです。
凛としている中にやるせなさが滲む文章。純文学の語り口が美しいです。
自分の命を投げうって主人を救った守り人と、その心臓を機械で動かし、自らの血を与えてまで彼の命を守り抜く主人。
この二人の関係には主従を超えたブロマンス的な愛を感じます。
愛する者を繋ぎ留めたいのは、相手を想う心か、それともエゴか、欺瞞か。
葛藤を見せる前半から、物語は思わぬ方向へ進み、守り人の運命が明かされることになります。機械仕掛けだったものに本当の血が通うとき、この守り人は自分の運命が主人のぬくもりで導かれたものと思うのでしょう。
その運命が苦しみではなく、幸福なものへと感じさせるラストは、こちらまで前向きな気持ちにしてくれます。
短いながらも、何かを守り、生き続けることの意味が詰まった物語です。
この家の当主には、代々力の有る者が継いで行く。
故にこの者はつけ狙われ、害を受ける。
朔弥は伊集院家の守り人。
或る時、時の当主、葵に害を成そうとする者が現れ、
守り人朔弥が、その身を盾に守った。
朔弥の心の臓は傷つき、そのままであればこの世を後にするはずだった。
しかし葵は、幼き頃から時を共にした彼を逝かせたくなかった。
西洋の文化から輸入されたロボーという小さな機械を埋め込み、
朔弥を現世に繋ぎ止めた。
彼は、感情を持たぬ人形とり、葵は、朔弥に追憶の影を追い、
悔悟に苦しみ、己が行いに葛藤するのだった。
生きているとは何か、心とは何か、考えさせられる物語。
是非、じっくりと読んで下さい。