第8話 ん?今、
昼飯を食べ終わったのは12時くらいだった。ゆとりを持ってイルカショーが行われるステージがあるイルカさんのステージエリアというまんまな名前のエリアに向かう。
「わっ、見てお兄ちゃん!」
そのエリアに向かってる途中、嬉しそうな声でルナちゃんが何かを指さした。
見てみると透明感のある白い小さなカエルがガラスの四角い飼育箱の中に居た。
じっ……とこっちを見ている。
「可愛い〜!」
「……可愛いかな?」
「可愛いよ!このつぶらな瞳とか!」
「つぶらな瞳……」
そのカエルの瞳を見ていると、だんだんキラキラしている様に見えてきた。しかし、
「う〜ん……カエル苦手だからかなぁ……どうしても可愛く見えない」
「えーなんかさ、普通のカエルとは違うこの、ちょこんとした感じが可愛いじゃん!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
カエルはともかく、ちょっとムキになった感じで言っているルナちゃん可愛い。
「……な、何?」
「いや、可愛いな〜って」
「……カエルが?」
「ルナちゃんが」
「〜っ!今は私じゃなくて…いや、見られるのは嫌じゃないけど!むしろ嬉しいけど!」
「可愛い〜」
「だからカエルを!」
「……何言ってるの?今はこのカエルの事可愛いって言ってたんだよ?」
ガチ目のトーンを声色に入れる。もちろん演技。
「も、もう知らない!」
「あっ待って、ごめん!調子乗った!」
……不貞腐れてるルナちゃん……アリだな。
―――
ステージに向かう道中。ルナちゃんはまだ不貞腐れてしまっていた。
「ごめん!」
「……」
この通り無視される。自業自得。
「ど、どうしたら許してくれますかね?」
「……なんでもするって言ってくれたら」
「なんでもするから許して下さい!」
「……今、なんでもするって言ってくれたよね?」
ルナちゃんの目が爛々と輝いている錯覚が見えた。
「……」
……不味い事を言ってしまったのかもしれない。
「ふふっ、なんでもか〜」
「……限界はあるからね?」
「ん?なんか言ったかな?」
「……ナンデモナイデス」
「腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10km、これを3年間お兄ちゃんに毎日やらせる……みたいな事もできるわけだ」
「いや、別に某ワンパン人間みたいなになりたくないから」
そんな事を運動不足な現代人の俺がやってしまったら間違いなく死んでしまう。
「流石に私もそんなに鬼畜じゃないよ……お兄ちゃんには後で詳細を伝えるから楽しみにしておいてね?」
「……はい」
覚悟を決めよう。
「あ、イルカさんのステージエリアに着いたみたいだよ……お兄ちゃん?」
「……」
「ごめんってお兄ちゃん!ほんとに今さっき言ったみたいな鬼畜な事は命令しないから!そんなに絶望した顔しないでって」
……今『命令』って言った。……やだ怖い……。
―――
後の絶望は後に回すとして今はめいっぱいイルカショーを楽しむ事にした。
「なんか前の席空いてるね」
「たしかに……」
後ろの席はだいたい埋まっているもののそれに比べて前の席は人が少ない。
「前の席に座るお客様〜防水ポンチョを500円で販売しております〜」
「あっ、そういう事か。水槽が近い分前の席は水しぶきがめっちゃかかるのか。……どうする?前行く?」
「行く!」
「了解した」
―――
店員さんから防水ポンチョなるものを買って待つこと15分。
「どうも〜こんにちは〜っ!」
飼育員のお兄さんが来た。
「僕は飼育員6年目のケンティーと申しま〜す!そして、こちらは……」
飼育員のお兄さんことケンティーが腕をサッとふると水中からイルカが勢い良く飛び出しきた。
そしてくるりと空中でひとひねり。着水と同時に水がはね水槽を飛び出し俺とルナちゃんにぶっかかる。
「うおっ」
「わっ!」
「この水族館のアイドルイルカのルナちゃんで〜す!前の席の方これからも水が飛びますんで注意してくださいね〜!」
一撃で防水ポンチョがびちゃびちゃだ。でも、中の服は一切濡れてない。迫力があるし、500円の価値はあるな、このポンチョ。
「じゃあ今回は、実験をしていこうかと思います!イルカさんはとっ〜ても頭良いと言われてますが、ルナちゃんにどのくらいの知能があるのかを確かめていきたいと思います!」
「……なんか馬鹿にされてる気がする」
「違うから!ケンティーが言ってるのはイルカの事だからね!」
「では、早速やっていきたいと思います!」
―――
「お兄ちゃん凄かったね!イルカってあんなに賢いとは思わなかった」
「うん。俺もびっくりしたわ」
物の形が分かるかというお題だったのだがイルカのルナちゃんはそれを簡単にこなしていた。
「ルナちゃん、次はどこ行くの?」
「えーっとね、ナマコのふれあいエリアってとこ」
「えっ、何それは。……どういうところ?」
「ナマコがいるって書いてあったよ?」
「まんまじゃん」
「ナマコってどんな感じだろ?」
「なんかぶよぶよしてるんじゃない?」
「……早く触りたいな」
―――
「うわっ、何コレ!?太くて長くて硬いのにヌメヌメしててぶよぶよしてる!?気持ち悪いけど気持ちいいよ!」
「なんだろう……すっごく艶めかしく聞こえる」
「え?なにが?」
「いや、なんでもない。でも確かに不思議な感触だね」
「え、お兄ちゃん、ナマコって目とか鼻とかの感覚器がないんだって!」
ルナちゃんが『ナマコの豆知識!』と書かれている看板を見て驚いている。
「え、じゃあこいつら何も感じないの?」
「そういう事じゃない?……私、ナマコに生まれないで良かった〜」
ルナちゃんがナマコを触りながら安堵したように言う。
「その言葉に俺は一体どう返せばいいんだ……」
「ごほん、え〜『……ナマコに生まれてたらルナちゃんと会えてなかったから激しく同意するぜ……』とか言えば良かったんじゃない?」
ルナちゃんが急なイケボで俺の真似をしだした。
「いや俺そんな痛い事言えるキャラじゃないでしょ!?てかルナちゃん超イケボだな!」
「ふふふっ、ナイスツッコミ」
そう言って目を細め笑うルナちゃん。
「楽しそうでなによりだよ……」
「お兄ちゃんといるといつでも楽しいよ」
「そういうの不意打ちでキュンと来るからやめて」
ナマコを触りながらキュンと来る日が来るとは思わなかったわ。
―――
帰りの車の中。
「いや〜楽しかった〜」
帰りのお土産屋で買ったナマコのデカいぬいぐるみを抱きしめてルナちゃんが言う。
「俺も楽しかったよ」
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「な、何かな?」
「覚えるよね?なんでもするって言ったこと」
「……はい」
「そ、その事なんだけど……今日の夜、キスしてくれない?」
「へ?」
―――
【ルナちゃん視点】
あーーーーーーーー!!!!!!!言っちゃった言っちゃった言っちゃった言っちゃった!!!!!!!引かれない?でも……いや……
うー……思わぬ棚ぼた的展開……これを活用しない手は無い!!!!!!!
……これでお兄ちゃんを籠絡してみせる!
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