10:雨の中

 森を抜けると、広がっていたのは草原だった。

 土の道を歩いて、ヴェネレは先へと進んで行く。

 この道中、どこかで『闇蛇』や『闇竜』に出会えないかと、期待して。

 ……本当は、会わないまま、一生歩くことになってしまえばいいのだけれども。

 と、ぽつり、と冷たさが頭に降ってきた。

「……やだなぁ、雨が降ってきた」

 先程からやたらと雲が多いと思っていた空。ついに厚い雲が空の全てを覆って、泣き始めた。

 髪が濡れる。服が濡れる――足元を見れば、土の道は泥になり始めていた。裸足を軽く上げれば、べったりと泥がこびりついている。

「あーあ。どろどろだ……」

 溜息を吐いて軽く地面を蹴れば、泥がぺちゃりと飛んだ。飛沫に、足はさらに泥にまみれる。

「……はは」

 それが何だか面白くなってしまって。

 ぱしゃっ、ぱしゃっ、と、ヴェネレはスキップをしながら泥の道を進み始めた。これも、悪くないと思った。

 ――それに、夜まで雨が降り続けてくれたのならば。

 人々の欲望は星に届かないだろうから。

 雨の中を、一人、進む。

 杖の先に、赤橙の星焔を灯さずに。


【黄昏色の救済者リーパー 終】

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黄昏色の救済者《リーパー》 ひゐ(宵々屋) @yoiyoiya

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