一休和尚曰く、もっと生きたい(意訳)
白川津 中々
■
歯止めの効かぬ高齢化社会においてテレビ番組のターゲットがジジババへとシフトしていくのは当然の帰結であり今日では各局シルバー色満載のバラエティが飽和状態となっていた。
そんな中で一際視聴者が熱狂し血圧をアゲサゲしている番組が、オラさ村だ。通称オラ村である。老男女各三名計六名の老人が隔離された村で共同生活する様子を映したドキュメント風バラエティ番組なのだが、これが暇を持て余す老人にバカウケし昼間の茶飲み話や酒の席でのクソ虚無トークに欠かせぬネタとなっていたのであった。
「松やん。観たかいオラ村」
「観たともさ。
「八十から三引いてもそりゃ誤差じゃろ」
「あ、藤っちゃんは酷いのぉ」
こんな具合に骨と皮ばかりだった老人達に幾らか血色の彩りを与えるオラ村は草津温泉並みの効能があるともっぱらの評判であり、試聴せぬものは地獄落ち待ったなしとの呪いめいた世迷い言まで流布される始末であった。ちなみに平均視聴率は六十パーセント弱であり、実に四割の人間が死後裁きに合う予定となっている。所業無情。
そんなオラ村で最も評価の高いコーナーが入れ歯チェックタイムである。食後、ジジババが入れ歯を外し洗浄液に浸すわけだが、その様子を観て、殊更老婆の咀嚼残しを観て老男連中が勃たぬ逸物を心で起こす狂気が伝播しているのであった。
「あぁ〜
などとトンチキな妄言狂言を並べる血迷い老人は後を絶たず、年甲斐もなく嫉妬する婆連中も一定数見られるのだから、人間の負の感情は死ぬまで宿り業として残るものだなと寺の坊主が諦観に磨きをかけた。
また、番組内でのイザコザも無論人気を博す要因となっており、恒例のゲートボール場マジガチデスマッチや、先の入れ歯チェックタイムでの諍い(誰がどの洗浄液を使っただのカップが違うだの)が老人達の色褪せたパトスを豊かにカラーリングしていき、時折発生する大往生スマッシュ南無阿弥陀の暴力性拡張に大きな影響を与えていたのだった。
しかし、そんな事態が社会問題となりオラ村はあえなく打ち切り。同時に棺桶に永住する老人が増加した。
少子高齢化の昨今、生きる上で、血生臭さや生々しさも多少は必要なのではないかと、売れない新聞の社説に報じられたが、老眼のため読める人間は少なく、日本は静かに滅んでいくのであった。
一休和尚曰く、もっと生きたい(意訳) 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます