第19話、魔族襲来「4」
俺はマナの手前で、足を止めてから口を開く。
「マナ! 魔族側に行った理由を答えてくれ。」
「……。」
「ずっと黙り込んだままじゃ、マナが何を考えてるのか分からないじゃないか。」
「……。」
マナと会話をしたかったが、マナは一向に口を開かない。
「何でなんだよ……! そんなに俺のことが嫌いになっちゃったのかよ!?」
「ち……ちが……。」
少しだけマナの声が聞こえた。
驚いてマナの顔を見たが、マナはまた口を閉ざして無表情になっている。
それでもマナが、何かと戦っていると思わせるには、十分な一言だった。
俺は活路を見出して、更に話し掛けようとしたが、魔族が魔物に乗り込んでマナの元まで飛んでくる。
向かって来た魔族に驚いて、俺はマナとの距離を空けてしまった。
その距離がマナとの別れを決定付けてしまう。
魔族は一瞬で時空を歪めさせて、マナと共に歪みの中に入ってしまったのだ。
俺も時空の歪みに入ろうと手を伸ばしたが、距離を開けてしまったのが致命的で、伸ばした手は空を切る。
「くそっ! もうちょっとでマナが戻って来たかもしれないのに……!」
俺は自分の判断を悔やんだ。
魔族から距離を取らなければとか、もっと早く反応出来ればなど。
そんな自分の過ちに嘆いていると、ハルトが声を掛けてくる。
「すまんな。ワイが魔族を抑え込めとったら、エレンの所に向かうこともなかったわ。」
ハルトが頭を下げて謝罪してきた。
俺は感謝こそするが、謝られると思っていなくて唖然としたが、すぐにハルトに返答する。
「いやいや。俺が魔族から距離を取らなければ、マナを連れて行かれる事は無かったよ。それにハルトさんが来てくれなければ、俺はここで死んでいたと思う。」
心から思った事を言うと、ハルトは頭を上げて喋り出した。
「そうだとしても、すまなかったと思っとる。……次にマナちゃんと遭遇したら、絶対に説得しようや!」
先程まで塞ぎ込んでいたが、ハルトの言葉によって少しだけ、思考を取り戻す事が出来た。
心の中でハルトに出会えた事に感謝して、気持ちを切り替える。
「ハルトさん。一緒に魔族の放った魔物を倒しに行こうよ!」
「おうよ。その言葉を待っとったで!」
気持ちを切り替えて、ハルトと共に森の奥へと入っていく。
暫く一緒に歩いていたが、地響きは全く聞こえない。
疑問に思ったので、ハルトに話し掛ける。
「魔物の気配が全く感じられないね。」
「結構歩いて来たと思うんやけどなぁ。」
「うーん……。ドラドラに乗って上空から探そっか。」
「せやな。その方が良いかもしれん。」
一向に気配を感じない魔物に対して、ザンドラに乗る案を出すと、ハルトは了承してくれた。
『ドラドラ。リバース。』
ザンドラを召喚して、俺は背中に乗り込む。
「ハルトさん捕まって。」
そしてハルトの腕を掴んでを引き上げると、ザンドラは高く飛び上がった。
「ドラドラ。近辺に魔物の群れがいないか探すから、色んなところを飛行してくれ。」
「ギャオォ!」
ザンドラは俺の指示に従って、大陸中を旋回する。
しかし魔物の群れは見当たらなかった。
「ランゲルーン王国に放たれた魔物の群れは、さっきので最後だったのかな? ウルガルド王国には6、7箇所くらい魔物の群れがあったのに。」
「少ない分にはええんやない? 脅威は去ったと報告すれば良いと思うで。」
ハルトには大丈夫だと言われたが、俺の中で懸念があったので、もう1周だけザンドラに旋回して貰ったが、それは杞憂に終わる。
まだ少し引っかかるが、ハルトが言うように報告する事にして、王国に帰還した。
ラグルーン王国に着いて、俺とハルトはすぐに城の中に入っていく。
そして王様であるスーマン・サンドラの元に着くと、俺は片膝を付いて口を開く。
「スーマン・サンドラ様。魔族の襲撃は退けました。
これよりウルガルド王国に帰還したいと思います。」
「こんなに早く解決させてしまったのか……? ウルガルド王国には凄いテイマーがいるの。」
スーマン・サンドラは少し沈黙して、また口を開く。
「もし、君さえ良ければラグルーン王国に在籍しないか?」
スーマン・サンドラから突然勧誘されて、思考が停止する。
それを横から見ていたハルトが、すぐに会話に参加するのだった。
「スーマン・サンドラ様。それはあきまへんで。ウルガルド王国の頂点に君臨するテイマーを引き抜くんは、友好関係が崩れる恐れがあるんちゃいます?」
ハルトが言うと、スーマン・サンドラは言葉を失う。
そしてスーマン・サンドラは少し考えてから、溜息を吐いて喋り出す。
「国を救ってくれたのに、無粋な真似をしてすまんな。先程の話は無かった事にしてくれ。それと、2人の名を聞かせてくれぬか?」
「エレンです。」
「ハルトや。」
「エレン? どこかで聞いた事があるような……。」
名前を教えると王様は俺の名前に反応したが、気のせいだと言って、城の外まで見送りをしてくれる。
ハルトと共に城を出ると、一緒に来たSランクテイマー達が帰る準備をしている最中だった。
「本当に見送りをしなくても良いのか?」
「少人数なら魔物に乗ってウルガルド王国まで行けるので、そちらの方が都合が良いんです。」
「ふむ。護衛は不都合か……。」
王様にウルガルドまでの護衛を断って、帰り支度が整うのを待つ。
全員の支度が終わると、ザンドラを召喚して全員に乗るようにお願いした。
そして乗り終わったのを確認すると、ザンドラに飛ぶように指示を出して、ウルガルド王国に帰還するのであった。
(ラグルーン王国は解決したけど、パルタスティック王国は大丈夫かな?)
ラグルーン王国の事を考えるが、ガストンとランカを信じてウルガルド王国に直進する。
ザンドラは凄まじい速度で飛行していき、3時間程でウルガルド王国に到着した。
1日でラグルーン王国の件を解決してしまったけど、辺りはもう暗くなっていた。
王様への報告は後日する事にして、全員に解散をしてもらう。
その場には、俺とハルトだけが残った。
「ハルトさん。ガストンさん達は大丈夫かな? 今から向かえば合流出来ると思うんだけど……。」
「お前は働きすぎや。今日は宿に戻って休むんやで? 休む事も大事やからな。」
「わかった。今日はハルトさんの言う通りにするよ。でも起きたら王様に報告して、ガストンさん達に合流するよね?」
「アホか。ガストンは序列1位のテイマーやで? そないな事したら、怒鳴られるに決まっとるやないか。」
ハルトの言い分が正しい気がして、援護に行くのをやめる事にした。
そしてマナとの事を改めて、ハルトにお礼をしてから宿屋に帰宅するのであった。
宿屋に到着すると、部屋に戻って今日の事を振り返る。
マナの事は前向きに検討する事が出来たが、魔物の群れが少なかった事や、ガストン達の方が気がかりで、すぐには眠れなかった。
(王国によって迫ってくる魔物の数が違うとなると、下手したら1番の激戦区になるんじゃないか?)
不安な考えがよぎるが、頭を振って寝る事に意識を傾ける。
「全部、明日の俺に丸投げしよっと。」
そう言って目を瞑ると、疲れていた事もあって自然と寝る事が出来た。
転生した俺にだけ使える魔物進化〜そして伝説になる 瑠偉 @h10314649Z
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