第102話
「見たところ、お前は小さい身体を活かしての素早い動きが得意なんだろ? だが、こちらにも対応できる手は十分にある――いけ!」
眼鏡をくいっと持ち上げたゴーレム男が意気揚々と右手をあげると、小型の一般的な成人人族男性サイズのゴーレムが十体ほどゾロゾロと現れる。
小型ゴーレムが十体、三メートルを超える大ゴーレムが十二体、それを上回る十メートル近い巨大ゴーレムが一体。
ミズキはそれらを一人で相手するということになる。
ゴーレム男は数で押そうと大量のゴーレムを用意していたようだ。
「これくらいはまだ全然余裕だな」
ここにくるまでミズキは少し身体を動かしたりないと感じていた。
エールテイル大森林での修行で、大量の魔物を相手取って戦うこともあったため、このぐらいの人数を相手するのはミズキにとって問題ではなかった。
「アーク。それと――”水虎”」
「ピー!」
名前を呼ぶだけでミズキが何をしてほしいか感じ取り、アークは大きく羽を広げて応える。
大きくなったアークの背にひらりと飛び乗ったミズキはどんどんゴーレムとの距離を詰めていく。
それと同時に、水でできた虎を九体生み出して並走させていく。
「す、すごいです……」
「う、うん、なんであんな風に……」
白魔導石の影響でこの場所は魔法をうまく使えない環境だ。
そんな場所で自由自在に魔法を展開できるのかと、エリザベートとユースティアは驚愕していた。
ミズキはどれだけ邪魔があっても、今までと変わらずに魔法を使っている。
しかも、苦労している様子も見えないし、戦いを楽しんでいるようでもある。
「とりあえず俺とアークは一番前に飛び出している小ゴーレム一体を倒すぞ」
「ピー!」
相手の強度や魔法抵抗力が不明であるため、まず一体先行して攻撃することで状態を探るつもりである。
追従している水虎は邪魔をしないように展開していく。
「いけ、アーク!」
ミズキの声に応えるようにアークは走る速度を上げて加速してきたところで、一気に低空飛行して、そのまま小ゴーレムへと向かって行く。
「ピイイ!」
もう少しで衝突するというところで、体を起こし、勢いそのままに足で思い切り蹴り飛ばした。
「GAGA……!」
アークの蹴りの勢いは鋭く、ゴーレムが抵抗する間もなく、後ろにいた小ゴーレム一体を巻き込んで壁に衝突する。
最初の一体の胸のあたりには、アークの爪痕が大きく刻まれていた。
「…………」
一瞬の出来事に、ゴーレム男はそれを唖然としながら見ている。
「…………」
「…………」
それはエリザベートとユースティアも同様だった。
「おぉ、いい攻撃が入ったじゃないか。なんだかんだアークもかなり強くなったな」
ニカッと笑ったミズキはそう言って、アークの頭を優しく撫でていく。
彼に褒められたため、アークも嬉しそうに羽根を広げてはためかせている。
エールテイル大森林では、ミズキたちの修業だけでなく、アークとイコも一緒に魔物と戦って強化されていた。
魔物である彼らはミズキたちのように魔法を使うことができないが、その身に魔力を宿して身体能力を強化する術を学んでいた。
魔力によって身体に変化を与えるのは、小型化するのにも使われている。
それに気づいたのはミズキが最初だった。
最初は全員が、アークが特殊なスキルに目覚めたものだとだけ考えていたが、ミズキの魔力操作訓練を見てアークとイコも隠れて練習していたとのことだった。
「さて、あの攻撃で一気に二体潰せるなら、他のやつらも大丈夫だな。それなら、水虎は一気に突っ込んでいけ!」
最初の一体で大体を把握したミズキは言葉で言うと同時に、魔力でもそう動くように水虎に指示を出していく。
既にミズキの手から離れているとはいえ、空気中の微細な魔力によってその指示が伝わり、八体の水虎と八体の小ゴーレムが正面から衝突する。
「さて、どうなるか」
水虎と魔力でつながっているミズキは見立て通りに行くのかじっと見守っている。
彼の視線の先で、ゴーレムを飲み込まんばかりに大口を開けて向かって行った水虎はその身が崩れたかと思うと、そのまま水になって地面に小さな水たまりを残していた。
「っ――な、なんで……」
しかし、ゴーレム男が驚いているように、それは小ゴーレムも同じで、水虎たちとぶつかり合ったそれらはバラバラになって地面に砕け散っていた。
結果からいえば、相打ちだった。
「……こんなもんか」
ミズキはやや結果に不満なようだったが、彼以外のこれ以外の者たちはただただ驚いている。
エリザベートとユースティアは、極端に魔法が使いづらい場所であれだけの高威力の魔法を使ってあっという間に小ゴーレムを倒したこと。
ゴーレム男は、たかが水属性の子どもがあっという間に小ゴーレム全てを倒してしまったこと。
それぞれが驚愕で口をポカンとあけている。
「そういえば、もう一体残っていたか。それじゃ、魔力を少し強めて……”大水虎”」
思い出したようにポンと手をたたいたミズキは一気に魔力を強め、残っていた水虎に魔力を込める。
最後の一体は巨大化して、巨大ゴーレムと比較しても遜色ないほどのサイズになっている。
「というわけで、大水虎……いけ!」
ミズキが手を伸ばしたのと同時に大きく足を踏み込んで走り出した大水虎は大きくいななきながら滑るように走りだす。
巨大なゴーレムへと勇ましくかみつかんばかりに牙をむき出しにしていた。
「……く、くそっ! だ、だが、水の魔物ごときに負けるはずがない!」
自分の作ったゴーレムが次々と倒れていく目の前の状況に悔しそうに指の爪を噛む男だったが、巨大ゴーレムへ鼓舞するように声をかける。
ゴーレム男が作ったゴーレムの中でも、この巨大ゴーレムには心血を注いでおり、最強のゴーレムと自負していた。
少し大きくなったくらいならば、先ほどのように相打ち、もしくは自分のゴーレムが勝って当然だと意地を張っている。
「GUOOOOOO!」
主人の期待に応えようとしているのか、巨大ゴーレムは大きく拳を振り上げて、力いっぱいに大水虎へと拳を撃ちだしていく。
魔力が込められているとはいえ、たかが水。
最強のゴーレムが負けるはずがない――そうゴーレム男は信じている。
「GAAA!!」
力をためた巨大ゴーレム全力の一撃が大水虎の顔面へと直撃したと思った瞬間、パンッと弾けるように大水虎の姿は掻き消えた。
「は、ははっ……なんだ、ただの見かけだおしか……」
ゴーレム男は、万が一負ける可能性も考えていただけに、あっさりと打ち倒したことに肩透かしをくらっていた。
巨大ゴーレムも肩透かしを食らったように、戸惑うような様子を見せながら自分の手の先を見ていた。
「――そのとおりだよ、よくわかったな」
戸惑うゴーレム男は、唐突に耳に入ってきたミズキの言葉にハッと我に返る。
ミズキは大水虎に攻撃をさせることで、全員の注目をそちらに集めさせていた。
その隙をついて、背後から巨大ゴーレムへと接近して、その核がある部分を水剣で貫いていたのだ。
「さ、これで、終わりでいいか? 他のやつまで壊すつもりはないんだが……」
スッと巨大ゴーレムから水剣を抜いたミズキは剣の先端を離れた場所にいるゴーレム男へと向けて質問する。
そんなミズキの背後では呆然と立ち尽くしていた巨大ゴーレムがこと切れ、ズシンと大きな音を立てて地面に倒れていた――。
いずれ水帝と呼ばれる少年 ~水魔法が最弱? お前たちはまだ本当の水魔法を知らない!~ かたなかじ @katanakaji
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