お調子者のA
チューブラーベルズの庭
お調子者のA
あのさ、こんな話があるんだけど聞いてくれる?
『お調子者のA』って話なんだけど――。
ある大学生が連休を利用して、仲間数人と連れ立って心霊スポットに行ったんだ。
その場所っていうのがお寺の墓地でさ、ある墓から老婆の幽霊が出るって噂があったんだよ。
それで深夜、懐中電灯片手に忍び込んだんだ。
もちろん幽霊なんて、誰も信じてなかった。
ただスリルが欲しかっただけで。
「おーいオバケさーん」とか「幽霊さーん」とかふざけながら、真っ暗な墓地を歩いてた。
目的の墓に着いた時だった。
みんな墓の前で写真撮ったり、わいわい騒いでたんだけど、急に無口になったやつがいたの。
「おい、どうした」
一人が声かけたら、そいつ、急に倒れたの。
元々そいつは、いわゆる霊的に敏感な体質だったんだけど、見るとガクガク震えて泡吹いてるんだ。
ヤバイと思って、救急車を呼ぼうとしたら、騒ぎを聞きつけた寺の住職がやってきたの。
倒れたやつを一目見るなり、「すぐにこっちへ運びなさい」ってお寺の客間みたいなところを空けてくれた。
お寺の人が介抱してくれたおかげで、そいつはすぐに落ち着いた。
霊障というより、神経が過敏になって倒れただけらしい。
それから住職のお説教が始まった。
「何やってたんだね君たちは」って言うから、渋々心霊スポットのことを話したんだ。
住職は呆れたようにため息をついて「君たちみたいな若者が、以前もうちにやってきて本当に迷惑してる」って。
当然だよね、真夜中勝手に墓地に入って騒いでるわけだから。
もう平謝り。
でもこの住職、別れ際に
なんか護符みたいな結構
「もうこんなことやめるんだよ」って言いながら、わざわざ一人一人に。
こっちは勝手に忍び込んだクソバカ大学生なのに。
微笑む住職にもう
朝日が後光みたいに見えたのを覚えてる。
だけどその帰り道、Aがやらかした。
「アホくさい」とか言って、その御札をびりびりに破り捨てたんだ。
さすがにみんな怒ったよ。
「うわ、バカ野郎!」
「おまえ最低!」
「マジひく」
非難
そりゃそうでしょ、こっちはめちゃくちゃ迷惑かけてるのにも関わらず、住職は親切心でそこまでしてくれたんだ。
でもAはヘラヘラ笑ってた。
要するに、強がって自分を大きく見せようとしただけなんだ。
破いた理由はそんなケチな理由なんだよ。
本当くだらない人間なんだ、こいつは。
それから連休が終わって大学が始まったんだけど、心霊スポットに行ったやつらが登校してこない。
どうなったかというとさ、みんな死んでたんだ――。
いや、殺されてたとかじゃなくて事故死らしいんだけど、それがおかしいんだよ。
寝てる時に窒息死してたり、深夜にビルから飛び降りたり、不自然な死に方ばっかりしてるんだ。
聞いた話だと、どの死体も御札を握りしめてたって言うんだ。
たくさんの噂話を聞いたよ。
――ほらみろ、心霊スポットなんかに行くから。
――だからやめとけって言ったのに。
――祟りだ。
だけどAは生きてた。
なぜか、Aだけ生きてたんだ。
何事もなく。
Aはこう思ったらしい。
――あいつらが祟りで死んだのなら、どうして俺だけ何も起こらない?
不思議に思うのは当然だ。
そしてふと例の御札のことに思い至った。
――あいつら、御札を持っていたのになぜ死んだ……? 祟りが強力すぎて御札が効かなかったのか?
分からない――。
御札は破り捨てたけど、何となく模様を覚えていた。
それからネットで独自に情報を集めたり詳しい人に相談したりして、必死に調べた。
ようやく判明した事実に驚愕した。
受け取った御札は、
平たく言えば、呪いの一種だ。
持っていれば不幸と災厄を呼び込む。
死んだやつらは、多分、御札のせいで、得体のしれない何かを――。
Aだけ何も起こらないのは、つまりそういうことだった。
――もうこんなことやめるんだよ。
柔和に笑う住職の顔を覚えていた。
とても優しい人だった。
――だけど、どうして、そんなものを俺たちに……。
あの住職が一体何を考えていたのか、なぜ呪いなどを
もう分かったかもしれないけど、お調子者のAってのは俺のことなんだよ。
お調子者のA チューブラーベルズの庭 @amega_furuno
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます