おまけ3・新たなる敵! ノライヌエンペラー!

★★★(ヒカリ)



『ヒカリ』


 私がちゃぶ台で寺子屋で宿題に出された計算問題をやっていると。

 テツコが畏まった様子で、私にこう言って来た。


 ふよふよ空中に浮きながら、正座。


 周りを見回す。

 お母さん、さっきまで居たけど、どこかに行っちゃった。


 今は、私1人だ。


 なので。


「……何?」


 普通に返事をした。


 テツコは、私に向かって、こう言って来たんだ。


『そろそろアンタに話しておかないといけないことがあるんだけど、よく聞いてね?』


「話しておきたい事……?」


『ちょっと長くなるから、アンタの部屋に行こう』


 ……分かったよ。




 私の部屋。


 勉強するための、書き物をするための机と、座布団。

 あと、寝るための布団があるだけの、殺風景な部屋。


 ……あ、殺風景は言いすぎかも。

 お母さんが作ってくれた、ドラ〇もんのぬいぐるみがあるから。

 お母さんが私の5才の誕生日に作ってくれた贈り物。

 宝物なんだ。大きいんだよ?

 私と同じくらいの大きさあるから。


 で、その他には。


 本棚があるけど、教科書だけしか入ってない。

 この教科書は、国から借りてるものだから、大事にしなきゃなんだ。


 落書きなんてしようものなら、ものすごく怒られる。


 で、私は。

 部屋の戸を閉めて、ひとり座布団に座りながら、空中にふよふよ浮いてるテツコと向き合っていた。


「で、話って何?」


 私はテツコに訊いた。

 真面目な話のはずだから。


 テツコは、話し始めた。


『……まず、ビッチヘイムの事は知ってるよね?』


「……こことは違う世界にある、血の池や、針の山、炎の草原が存在するテーマパークでしょ?」


『そうそう』


 ビッチヘイムとは、この世界とは別の次元にある魔法のテーマパークで。

 そこでは妖精たちが日夜、刀や斧、素手や異能を使って、血で血を洗うスポーツに勤しんでいる平和な世界らしい。

 妖精たちはスポーツが大好きで、スポーツで怪我をしても、1日あれば元のように再生するから、延々、刀や斧、槍や弓矢で血で血を洗う、過激なスポーツを楽しんでるんだって。


 私はそんな世界に行きたくないなと思ったけど、テツコはそこで、超ラブラブな相方と毎日組んでそのスポーツの上位ランカーとして活躍してたらしく。

 ビッチヘイムの話をするとき、テツコはとても懐かしそうな顔をするんだ……。


 テツコは悪いヤツじゃないけど……正直この辺はわけわかんない。

 イカれてると思う。


「で、そのビッチヘイムと何か関係がある話なの?」


 私がそんな内心をなるべく顔に出さないように気をつけて話を繋ぐと


『実はね……』


 言ってテツコは、スカートのポケットから何かを出してきた。


 ……白い色をした、板みたいなものだった。

 かまぼこの板くらいの長さの板の一端に、台座みたいなものがくっついてて。

 立てて置けるようになってる。


 板には『伊邪那美』って黒で書かれてる。

 難しい漢字だ……。


 私には読めないよ……!


『これ、イハイパクト。これをアンタにあげる』


 イハイパクト……?


『ビッチヘイムの王様、閻魔様にアンタに渡す様に渡されたの』


 ビッチヘイムの王様・エンマ様……?

 また新しい登場人物が……


 それに、私に渡すって、実体のないテツコの持ってるものをどう渡すって言うんだろう……?


 無理だよ、と思いつつ、テツコの差し出すイハイパクトを受け取るフリをした。

 いや、しようとしたんだ。


 すると……


「あれ? あれれ?」


 実体が無いテツコが差し出したものなのに、何故か受け取れた。

 渡されたものは、白い木で作られた、小さいパネルみたいだった。


『大事にするんだよ。この世に1つしかないもの何だからね? そのイハイパクト・イザナミは』


 真剣な顔で、テツコ。

 続いて、先っぽに鉄のお椀みたいなものがくっついた棒と、そのお椀を叩くためのような、小さいスティックを渡された。


『これがおりんチャイムに、おりんスティック』


 これも、実体のないテツコの手渡したものなのに、私の手に触れた途端、実物になった。


 ……どうなってるんだろう?


『……以上が、ノラハンター変身セット。これからは肌身離さず持ち歩いて、絶対に紛失しないようにね』


「ノラハンター変身セット?」


 何それ?

 聞いたことも無いことを言われて、私は頭の中がハテナマークだった。


 テツコは、そんな私の反応を予想してたのかな。


『……ゴチャゴチャ言うより、使ってみた方が良いね。……今から言うとおりにするのよ」


 うーん……色々気になるけど。


 テツコはちょっとイカれてるけど、洒落にならないことはしないから。

 言うとおりにしよう。


 私はコクンと頷いた。


 それを見て、テツコは満足そうに頷いて。


『まず、イハイパクトを、「イハイパクト・イザナミ、セット!」って言いながら、自分の前に立てる。漢字が自分が見えるように。あ、正座しながらだよ?』


 分かった。


 言われた通りにやる、


「イハイパクト・イザナミ、セット!」


 正座して、言いながら、イハイパクトを漢字の「伊邪那美」が見えるようにこちらに向けて立てた。


 ……で、次は?


 テツコに視線を投げると、テツコは腕を組みながら、次の動作を話してくれた。


『イハイパクトを見つめながら「変身!」と言い、同時におりんチャイムを1回おりんスティックで叩いて、鳴ってるおりんチャイムを、自分の額に近づける』


 ……なんかややこしい気がするけど、ようはイハイパクトを見ながら変身とコールして、同時におりんチャイムを鳴らして自分の額に近づけたらいいんだね?


「変身!」


 イハイパクトを見つめながら、コールして、おりんチャイムをおりんスティックで1回叩く。


 チーン


 イーン


 イーン


 たった1回叩いただけなのに。

 おりんチャイムの音は何かと共鳴するみたいに鳴り響いた。


 私は、そんなおりんチャイムを自分の額に……


 すると……


 ピカッ! っておりんチャイムと私の額の間に、輝きが生まれ


 私の姿が変わった。


 まず、来ていた着物が全部なくなり、代わりに白いフリフリのついたドレスみたいな服に変化した。

 ただ、ドレスと言っても、動きやすくなってて、ミニスカート。


 両手と両足に、ドレスと同色の手袋とブーツがついて。


 最後に私の髪がグンと伸び、背中を覆うくらいになって、その上金髪になった。


 私……変身しちゃった!!?


 そして驚く私のすぐ横で、イハイパクトが浮かび上がり、勝手に腰につけられたポケットの中に収納される。


『これが……アンタのノラハンターとしての姿……イザナミハンターよ』


「イザナミハンター……?」


 驚きのあまり、テツコの言う事をそのまま繰り返す私。

 テツコは続けた。


『アンタはその姿で、近い将来、邪悪と戦う運命を背負ってるの』


「え……?」


 邪悪と……戦う?


 何それ、かっこいい!


 ドキドキする私。


『ちなみにその姿になると、イザナミノミコトの力で、雷と土の精霊魔法を無制限で使いまくれるから、それを駆使して戦いなさい』


 え……この姿、精霊魔法を無制限で使えるの?

 すっごいじゃん!!


 お母さん、雷の精霊魔法が使えるけど、私は雷と土!

 お母さんよりスゴイ!


 スッゴイよ!


 ……でも


『ただし』


 降って湧いたノラハンターの力に、私がわくわくしていると。


 テツコが、こう言って来たんだ。


『絶対に、正体はバレちゃダメだよ』


 ……え?


「どーして?」


 分からなかったから、聞いたら


『……古今東西、変身ヒロインが一般人に正体がバレちゃったら、酷い目に遭わされるのが定石なのよ』


 え……そうなんだ?


 どんな目に遭わされるのか……?


 気になったけど、聞いてはいけない気がしたから私は我慢した。

 きっと、世の中の怖さを知らされてしまう気がしたから……


「分かった……絶対にナイショにする」


『そうするといいよ』


 うんうん、とテツコは真面目な顔で頷いていた。


「で……」


 正体はバレちゃダメ。

 その話はお終い。

 それでいい。


 けど。


 もうひとつ、聞きたいこと。


「私が戦う邪悪って、何なの……?」


『それはね……』


 テツコは、話してくれた。


 それは……


『ノライヌエンペラー……究極のノライヌ。真のノライヌ最上位種よ』


 そんなのが、近い将来出現して、邪悪な女神・マーラを復活させるために悪いことをするんだって。

 いつ出現するのか?


 ……それは


『アンタがDカップになった頃かな』


「Dカップ……?」


 私が首を傾げると


『アンタのお母さんのおっぱいの一歩手前よ』


「分かった……」


 私がお母さんに迫るほどになったときに、邪悪が来るんだね?

 私は、心に誓った。


 必ずや、ノライヌエンペラーの企みを砕くことを。



 その、次の日からだった。


「お母さん、杖術を教えて」


「あら、前は教えようとしたら嫌がってたのに」


 ……私は、お母さんから杖術を真剣に習うことを決めたんだ。


「爪先ッ! 顎ッ! 脇ーッ!!」


「つまさきッ! あごッ! わきーッ!」


 ……来るべき日のために!

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【完全完結】異世界で女子高生が「漢字を広めようと」頑張る話 XX @yamakawauminosuke

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