召喚の儀によって地球から召喚された傭兵の男性が主人公……ではなく、召喚した宮廷魔法使いの女性が主人公の物語。
途中、少し意外な旅のお供を伴いながら、主人公たちが目指すのは魔王討伐。しかし、魔王軍もまた、主人公たちの知らない強力な隠し玉を持っていたようで……?
謎多き傭兵とともに、主人公は祖国のため、戦場へ赴く──。
宮廷魔法使いの女性による一人称で進む物語。丁寧に取捨が選択された最低限の情景描写はスッキリとしていて読みやすかった印象です。また、そうして余計な描写がないために物語が前へ前へとテンポ良く進んでいき、次から次へと発生するイベントに心躍らされてしまいました。
体言止めが要所要所に光っていたのも印象的です。それにより、どこか「詩」のような独特のリズムが読み手である私の中に形成されていました。この点は好みは分かれると思われますが、少なくとも、私はそのリズムが心地よく感じら、本作の魅力の1つに感じました。全体的に流れるように物語を味わえたような気がします。
そんな、独特なリズムとテンポの良さを持って描かれるのは、宮廷魔法使いの女性と召喚者の男性が魔王討伐へと赴く姿です。
この召喚された男性というのがまたミステリアスで、勇者になれと言われて「分かった」と即答したり、軍人だったのにわざわざ傭兵に身をやつしていたりと、タイトル通り“ワケアリ”みたいなんです。
この、謎に包まれた男性もまた、本作の魅力。話が進むたびに少しずつ明るみになる男性の素性。しかし、段差の過去を知るたびに謎が増えていくという……。
物語全体の目標である魔王討伐もさることながら、このクール(たまに天然あり)な傭兵さんのミステリアスな部分もが本作への興味に繋がり、読み進める手を止めてくれません。
そんな、クールな傭兵の男性と、主人公を含めた他の登場人物たちのやり取りもまた秀逸です!
特に、主人公である宮廷魔法使いさんと傭兵さんとの温度差がとにかく絶妙。色々覚悟を決めてアレコレと言葉を募る主人公に対して、傭兵は淡々と、あるいは飄々と、主人公の言葉を受け止める。その温度が、基本シリアスな雰囲気の本作の中にコミカルさを与えてくれていて、心地よい。
お互い違う文化圏で育ってきたからこそ生まれる違いに翻弄される主人公は見ていて微笑ましく、それでいて、勤勉な面も垣間見られて、好感を抱かずにはいられませんでした。
ついでに、ですが、勇者として召喚された傭兵さんはちゃんと強いです。チートというやつです。生産・知識・身体能力……。様々な面で優秀なので、戦闘における“余計なストレス”は感じられませんでした。もちろん、頭を使ったり、主人公が機転を利かせたりと、ただチート能力で無双するだけでは無いので、ご安心下さい。
主人公の能力は本作の内容で知ってもらうとしまして、個人的には、主人公が時折ちらりと見せる異世界への文化的配慮に、思慮深い“主人公らしさ”を感じられました。ずっと異世界に居座るならともかく、傭兵……帰ることを前提とした動きとしては、さもありなん、でした。
傭兵さんを中心に魅力的なキャラと、やり取り。そして、傭兵さんを知ることで、同時に少しずつ見えてくるこの世界の謎や因縁……。そんな、底を尽くことのない物語への興味と、シリアスなのに読みやすい、独特な雰囲気を持つ本作。
ファンタジーなので剣と魔法はもちろんですが、例えば「軍」や「おじさん」などの要素が好きな方には特にオススメしてみたい、素敵な作品です!