水遊び

そのいち


 私の母は「お水」を目の敵にしている。


 それはまさにと油の間柄で、おを見るや否や、あからさまに敵意を示す。

 普段は温厚な母の変貌に私たち家族はを打ったように静まり返る。


 ところでこの「お水」だが、水分のお水でなくキャバクラ等の商売を生業とする、いわゆる「お水」の人を指す。


 そのお水をなぜ母が嫌ったかといえば、それは父の愚行に起因する。


 私の父はダメな父親で、定職に就かず面に浮かぶ木の葉の様にフラフラ漂ている。唯一の自慢は「も滴るいい男」と自ら語るように容姿は良いらしい。


 そんな父がかつてキャバクラ通いにハマっていた。


 父は働きもしないのに母が稼いだお金を湯の如く使うものだから、流石の母も怒り狂ったのだ。一応父は改心して「一生おに近づかない」と誓う。


 それ以来、母は「お水」を目の敵にしている。

 私は「水商売も仕事だから」と怒る母にを差すような事を言うも、聞く耳もたない。


 実は私もその「お水」なのだ。

 家が貧乏なので小遣い稼ぎにキャバ嬢として隠れて水商売をしていた。


 そして父はそのことを知っている。


 というのも父のキャバクラ通いは密かに続いていたようで、私が働くお店に偶然訪れたのだ。


 誓いを泡に帰した父には腹が立つが、一方の私にも負い目があって文句を言えない。実は私は年齢を偽って働いていた。


 ばれてしまっては仕方がない。覆盆に返らずということで、互いの過ちをに流し、私と父は、母には秘密の協定を結んだ。


 だがある日のこと、父は急に「ごめん、バレた」と告げてきた。

 寝耳にだった。父のキャバクラ通いが母にバレたのだ。


 そして「お前のことも売った」とも言った。

 冷や浴びる思いがした。


 父に招かれリビングへ向かえば、そこには火を見るより明らかに怒れる母がいた。

 父はすかさず母の足元に跪く。私も続き跪いた。


 ただ父は馬鹿なので、仁王立ちで黙る母に隙ありと見て「単なる火遊びさ」と、やはり馬鹿を言った。当然ながら父の遊んだ火は母の炎を更にたぎらせ、燃え盛る火の手は私にまでも及ぶ。


 怒りの炎に晒された私は、それでも血はよりも濃いはずだと、母にすがるように冗談を言った。


「単なる遊びだって」


 遊び感覚の水商売だったので洒落てみたのだ。


 ところでこの話しには、多くの「」を含んでいるが、それは母の怒りを鎮火するためのことだった。だが、承知のとおり一切変化は見られない。


 私と父はリビングが水浸しになるまで母に泣かされた。


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水遊び そのいち @sonoichi

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