生きとし生ける者は皆魔法を抱えている。違いはただ、使えるかどうかだけで

魔法とはいったい何なのでしょう。

こちらの作品の主人公であるジリアンは、魔法を学ぶ学校で苦汁を味わい、過去の家庭の問題も重なって、魔法使い(作中の言葉では「魔術師」ですが)であることを辞めてしまいます。そして元音楽家の獣人・ノエルの家で住み込みのハウスキーパーとして働き始めます。
ノエルは魔法を学んでいたジリアンに「花に歌を歌わせることはできないか」という相談を持ち掛けます。花って、植物のあの花。歌って、音楽のあの歌。昔そういうおもちゃがあったような気がしますが、ノエルはいたって真剣です。

二人の生活は穏やかで凪いでいます。二人は特別なことは何もせず、ただ、毎日食事をともにし、たわいもないことを話し、そして時々歌う花の研究をしています。でも、それだけの生活がいかに尊く難しいことか。
二人は傷をもつ者同士として連帯します。そこにそれ以上の意味がないからこそ、二人も、そして読んでいる我々も癒されるのだと思います。

魔法とはいったい何なのでしょう。
それは暮らしを豊かにするものですか。
この作品はそれを静かに問いかけてきます。