こちらの作品は『海上の密室』『身近な毒物』などの要素を含んだ推理物の作品となっています。
特徴的な内容として、視点人物を中心に物語が進むものの、人物の感情などが控えめに描かれていて、どこか俯瞰的な視点で読み進める様な文章で、
一度物語の進行を止め、あえて作者さんの存在感を表に出し、『作者と読者の知恵比べ』を作品の中の一興として書いている点があります。
その際、推理系が初めての人も楽しめるように、白黒がはっきりとついている人物や、推理のヒントをあらかじめ提示し、『物語を楽しみたい人』に『推理を楽しんでもらう』という誘導がある点は、
『この作品を楽しく読んでほしい』という作者さんの工夫が感じられ、とても良い印象を受けました。
物語は会話を主体に進み、描写も丁寧ながら無駄がなく、とても読みやすかったです。
私はあまり推理物は読まないのですが、「あ~!!」となるトリックもあり、この作品全体を2周ほどして楽しませていただきました。
トリックのためのミスリードが行われるなど、技法的な面白さもあり、★3評価では物足りないクオリティとなっています......!
新聞部に所属する紀野屋島はヨット部の取材中に毒殺事件に巻き込まれてしまう! 海上で起きた事件ゆえに犯行が可能だったのは被害者と同時刻に海にいたヨット部の部員のみ。高校生活最後の大会を目前というタイミングでなぜ犯人は殺人を犯したのか? 刑事たちから第一容疑者と見なされた紀野は幼なじみである藤塚荘司の助けを借りて事件の解決に乗り出すが……。
海の上という事件の舞台こそ珍しいが、その推理の過程はとても論理的。事件の起きた時間や証拠に残された指紋、部員たちの証言など、一つ一つの手掛かりを丁寧に追い、網を絞るようにして犯人の条件に合う人間を探っていく。
そうして手がかりを全て開示してからの読者への挑戦状が出て来るのでつい嬉しくなってしまうのだが、本作はそれだけでは終わらない。最後の最後で一度解いたはずの謎が思わぬ形でひっくり返る。是非実際に推理しながら読んでいただきたい一作だ。
(「部活、どうでしょう?」4選/文=柿崎 憲)
ミステリーやサスペンス作品というと小難しく、集中しないとトリックや伏線を見逃しそうで読むのに体力がいるという印象でした。
本作はミステリーとしての軸はしっかりとありながらも、丁寧な描写と「説明しすぎない」説明の良さが光り、ミステリー初心者にもおすすめできる傑作となっています。
舞台は現代、とある高校のヨット部の練習風景を取材しにきた主人公が、海上の密室殺人に巻き込まれるところから始まる。
密室殺人という本来はありえないはずの状況を作りだしたトリック、そして絞られていく犯人たち――
主人公が女子高生という等身大な姿で描かれていくので、事件に対して焦ったり困惑したり、時には勇気を出して幼馴染と一緒に解決の糸口を探っていく流れは秀逸。
読みやすいミステリーを求めている読者様にとって、まさにぴったりな作品だと思います。
ぜひご一読ください。
水鳥です。カクヨム初心者のため、すこし操作が不慣れです。ご容赦ください。
4章4まで拝読しております。
この作品は、探偵役の相棒視点で描かれる本格ミステリーです。
一般的にミステリーでは大人の界隈の話が描かれがちですが、この作品は高校生の部活動を舞台として、若々しさ、爽やかさ、瑞々しさ、そしてミステリーとしてのひりつくような悲しさをも持っています。
語り口がポップなため、非常に読みやすいです。このような作品がシリーズ化されていると嬉しいだろうなと、一読者として思います。
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・この作品を読んで最初に魅力に感じたのは、自由奔放な主人公の存在でした。「愛らしい」という言葉がよく似合うのではと思います。
人の好みは人それぞれではありますが、大衆受けしやすいキャラクターのように見えました。思わず、読み手の笑みを誘うような主人公です。
・舞台は部活動でありながら、私自身の経験してきた青春とは違う景色が見えました。ヨット部、香川、海、うどん。どれも私にとっては新鮮で、だからこそ描写される景色にときめきを感じました。
・某章の、無実に言及するシーンはミステリーとしてやや物足りなさを感じるかもしれません。「本格ミステリー」を期待して読む人にとって最初の見せ場になるので、確実な物的証拠をもって展開した方が、読者の期待に応えられるかと思いました。
あるいは、「口達者な高校生」としてキャラクターを前面に出していくなら、「口達者」としての描写を事件前に展開しておくことで、某章のシーンで読者が「こいつは一体何を言い出すか」という期待感を持てるのかもしれません。
・ページあたりの文字数に不満はなかったです。登場人物の名前が覚えられないという課題はありますが、早急に登場人物を出し切らなければならないミステリーではありがちな課題なので、難しいですね。
・所々に、「これ本当なんだろうか?」と興味を惹かれる記述があって楽しかったです。( 例えば、1章の花と海の記述です)
Twitterのタグより読ませて頂きました。
ミステリ云々の前に小説として、ひとつの物語としてキャラクターが立っており、動いている事にとても好感が持てます。
そして話の主題である謎ですが、きちんと練られていると思いますしそもそもファンタジーもの隆盛のWeb小説界において現代ミステリは割合数が少なく、きちんと話として成立しているという時点で評価に値するものでしょう。
ですが、個人的な嗜好を用い、そして自らの執筆技術不足を棚に上げて評価させていただくのであれば、その『謎』はかなり単純なものである、という印象もまた受けました。
私がミステリ作品を好んで読むことから多少辛口な評価になるのですが、話の展開として起こり、そして解決される『謎』は先の展開を勿論知らない私でもある程度は予想出来てしまうものでした。ミステリ作品というのは物語に『謎』を展開するだけでなく、読者に対してもそれを投げ掛け、思考させるものであるとも言えます。(『探偵からの挑戦状』が有名であるように)
そのため、個人的な総評としては『物語としてはキャラが生き生きと動いていて面白いものの、ミステリとしてはあと一歩』といった感じです。
勿論これは足りていない、という意味ではなくさらに向上の余地があるという観点からです。
長々と書いてしまいましたが、以後の活躍をお祈りしています。くれぐれもご自愛されながら執筆活動を続けられますようお願い致します。
追伸
『そんな坩堝と化した艇庫に十川戻ってきたのは、十分後のことだった。』
という文がありましたが、恐らく『が』が抜けていると思われます。