火の金魚へくべられたものはいったい何だったのか?

10月のある日。赤金楓は、空中を泳ぐ、火でできているらしい金魚を発見する。好奇心に駆られて追いかけた彼は、ふとした思いつきを実行することに。果たして相手に渡すつもりのない手紙を金魚へかざしてみると……手紙は燃えてなくなって。その日から同じように金魚を追って手紙を燃やすようになる彼だったが、それを親友である黄海梓に見つかってしまう。

まず、物語への入りがいいんですよねぇ。読者の目をふと引き止めておいて、そのまますらりと楓さんの心情へ入っていく。しかもその心情がまた、現実の光景とうまく折り重ねられているわけですよ! それは印象的な「例え」を表現するばかりでなく、読者へ物語の情景とその裏に潜められた含み――すなわちキャラクターが口にしない/口にできない思いをより明確に、より叙情的に思い描かせることにもなるのですね。短いお話ではあるのですが、実に濃やかで胸打たれまくります。

ファンタジーと人間ドラマが両立した読み応えありありな一作です。


(「季節、秋から冬へ」4選/文=髙橋 剛)