城落ちて夢破れた若者の待つや遠き八王子

 読み終わってから一週間待った。それは私にとって頭のどこかで反芻し感想を醸造する手段である。この作者の手法は前から評価していたが、夢幻能の余韻を加えさらに深さが増してきた。
 前に書いたかもしれないがこの作品をもって野呂 邦暢の「落城記」を引き合いに出すのは失礼かもしれないが、落城する前の城の状況を活写した2つの作品を賛美したいからに過ぎない。城割とそこに住み守る人々の高らかな営みを丹念に描き、守るものを持った中世の人間模様に感銘するのである。

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