紅蓮の石 八王子城秘話
オボロツキーヨ
第一話 曼珠沙華(まんじゅしゃげ)
(一)
おや、道ばたに赤い花が咲いている。ここにもあそこにも。
(二)
「
「この花が好きだ」そう言い、ため息をつく。
「竜兄、急にどうしたんだよ。武士になりたかったなんて知らなかったよ。もう五年も刀鍛冶の修行をしたのに、出て行っちまうなんて残念だ。もしかして、それが初めて作った短刀か。見せておくれよ」
そ知らぬ顔をして、ぴたぴたと手の平の肉を鳴らし続ける。けたたましく
「刀を作るのでなく、刀を振る者になりたいのだ。おまえの子守りをするのは、もううんざりだ」
短刀を握りしめ、おれを横目でにらむ。
「何だって、竜兄の馬鹿野郎」
頭に血が上り、まるで暴君のように脇腹を蹴り上げた。
脇腹の肉は石のように堅かった。刀鍛冶の仕事で
そして、すぐに仕返として腕をつかまれて、
「ふふふ、お榧、おまえは相変わらず細いな。この腕で
ふざけているのか、怒っているのかよくわからない。奇妙な声でそう言いながら、耳の下や脇の下など、おれの弱いところをくすぐる。
「ぎゃーやめてくれーお願い、やめてやめて-死ぬー」
くすぐりの刑を受けて息が止まりそうになる。感高い悲鳴を上げ手足をばたつかせた。
おれの
「これ何だよ、汚いな。どうしたっていうんだ。何泣いているんだよ。遠くに行くわけでもあるまいし。八王子城なんて、すぐ目と鼻の先だろう。また、いつでも会える。立派な武士になれよ。そうしたら、このおれが竜兄のために作刀してやる。それとも刀より
鍛錬場から
一輪の赤い花は、飛び散る火花に見えた。
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