【短編】マッチ売りの少女は終わらない
雪華シオン❄️🌸
プロローグ マッチ売りの少女
それは、酷く寒い夜でした。
辺りは真っ暗で雪が降る夜空の下、みすぼらしい一人の少女が歩いています。
「マッチは、いりませんか」
少女は帽子も被らず、裸足のせいか足は赤く腫れ、青じんでいました。
エプロンの中には沢山のマッチが入っていて、冷たくて震える手にも一箱持っています。
少女は家を出る時は、お母さんが履いていた大きな靴を履いていました。
そうです。確かに履いていたのです。
しかし、大急ぎで道を渡ろうとした時、馬車が走ってきて少女は転んでしまって。大きな靴をなくしてしまいました。とても不運な出来事が、寒い夜に起きてしまったのです。
「マッチを……かってください」
一日中売り歩いても買ってくれる人はおろか、一枚の銅貨すらくれる人はいません。
お腹が空いて。
寒さに身体がぶるぶると震えて。
足が痛くて。
まるで心が凍り付いていくようです。
どの家の窓も明かりが付く中、香ばしいガチョウの丸焼きの匂いがしました。
お腹がぐぅ〜となりそうな良い匂いがする方に少女は視線を向けます。
「あぁ、おなか、すいた」
そして、少女はそんな遠い景色を見て、今日が何の日なのか思い出しました。
「そうか。きょうはおおみそかなんだ」
少女は力無く息を吐いて、地べたにぐったりと座り込んで、丸くなってしまいます。
少女には家に帰る勇気がありませんでした。
なぜなら、マッチを一箱でも売って、一枚でもいいから銅貨を持って帰らなければ、お父さんが頰をブツに違いないからです。
家に帰れない。
マッチも売れない。
銅貨も誰も恵んではくれない。
それがこの街の現実で。貧しい者は見捨てられる、この王国の実態でした。
ここで寒さを凌ぐしかない少女は、寒さに堪え兼ねて、
「そうだ。マッチであたたまろう」
マッチを箱から取り出して「シュッ!」と擦ります。
マッチが明るく燃え上がりました。
すると、不思議なことにまるで大きな鉄のストーブの前にいるみたいに感じるのです。
「あたたかい」
火が消えて、再び、「シュッ!」と少女はマッチを壁で擦ります。
マッチがさっきよりも明るく燃え上がります。
今度は雪のように白いテーブルクロスが掛かったテーブルの上に、豪華な料理とガチョウの丸焼きがのっていました。
「わぁ、おいしそう〜♪」
しかし、少女が手を伸ばすとマッチの火は消えてしまいます。
そして、冷たい雪で湿った分厚い壁しか、少女の前にはありませんでした。
また「シュッ!」と少女はマッチを擦ります。
再び、マッチが明るく燃え上がります。
すると、少女はクリスマスツリーの下に座っていました。
「すごい。……とてもきれい」
どんな家のツリーよりも大きくて、綺麗で豪華に飾り付けされていて。
少女が手を伸ばそうとして、ふっとマッチは消えてしまいます。
すると、クリスマスの蝋燭がぐんぐんっと空に登っていって、夜空に輝く星たちと見分けがつかなくなってしまいました。
その時です。
「あぁ、ながれぼし」と少女は一筋の流星を見つけました。
少女は夜空に描く一筋の光を見て。少女のお婆ちゃんが「人が死ぬと、流れ星が落ちて、命が神様のところへ行くんだよ」と言ったことを思い出します。
でも、それを教えてくれたお婆ちゃんはもういません。
たった一人、少女を愛してくれたお婆ちゃんはもう、世界のどこにもいません。
「だれかが、しぬんだ……」
少女はもう一度、マッチを擦りました。
すると、光が包んで。光の中にお婆ちゃんが立っていていたのです。
昔と同じように、お婆ちゃんは穏やかに笑っていて、少女は「おばあちゃん!」と大声を出しました。
「ねぇ、わたしをいっしょにつれてってくれる?」
少女はマッチの束を全部出して、
「マッチがもえつきたら、お婆ちゃんもどこかへいっちゃうんでしょ!」
躊躇なく、全てのマッチに火をつけました。
なぜなら、マッチの火をつけないとおばあちゃんが消えてしまうからです。
「あったかいストーブやガチョウのまるやき、きれいなクリスマスツリーみたいに、」
少女は懸命に、
「――きえちゃんでしょ!」
マッチを持った手を伸ばしました。
すると、マッチの光は真昼の太陽よりも明るくなりました。
そして、ふわっと少女の身体が浮かび上がって、天高く登っていって――。
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