二年目 五月上旬 外務省

「何で、私まで話が上がってくるのが遅れた?」

 外務大臣は、アジア大洋州局長を、そう叱責した。

「現地の大使館の者が……その……これが何か判らなかったようでして……」

「どう対応していいか判らなかった、と云う訳か……」

「はぁ……」

「ネットには拡散はしていないな?」

「先方も、これをどう取り扱って良いか判らないようで……箝口令が敷かれているようです」

「とは言え……つまり……中国に、『特異型男性』が……何と言うか……」

「はい……特異型男性が……その……例の条件で死亡した場合に何が起きるかを知られてしまいました」

 これから何が起きるか判らない。

 だが……この事態も予想して然るべきだった。

 しかし……事前に、どんな対策を取れば良かったのだ?

 そして、これから、何をすれば良いのだ?

 様々な考えが……外務大臣の脳裏を駆け巡るが……。

「いずれ……他の国も……知る事になる訳か……遅かれ早かれな……」

「はぁ……」

 外務大臣の机のPCに表示されているのは、北京の日本大使館から送られてきた資料だった。

 日本の地方議員が、中国国内で麻薬取締関係の法令に違反した容疑で中国の公安警察に逮捕される、という数年前に起きた前代未聞の事件。

 その地方議員は除名処分になり、中国で無期懲役の実刑判決を受けた。

 だが、刑務所内で、脳梗塞と思われる症状を発症し……病院に移送され検査中に……。

「あ……あの……それと、まだ、確認中なのですが……」

「何だ?」

「遺族が、中国当局に……その……遺体か遺骨の引渡しを求めるつもりのようで……」

 これに……骨は有るのだろうか?

 外務大臣は、異形の姿と化した遺体の写真を見ながら、そんな事を思い浮かべた。

「中国側に遺族から、そのような要求が有った場合は断わるように交渉してくれ。何なら……ああ、そうだ……日本こっち側で偽の遺骨を用意する事は出来ないか?」

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μ5型男性 @HasumiChouji

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