4・私の彼

 恋人である彼に婚約者ができた。それは私ではない別のひと。


 彼と出会った当時、彼には複数の恋人がいた。

 どれもキレイで、若くて、彼の為につくすひとばかり。


 そんな中で私は彼女たちより十も上。どこか一歩引いて彼の気を引く彼女たちを見ていた。

 焦り、もちろんあった。それよりも諦めの方が大きかったのかもしれない。

 私は彼に選ばれることはないと。


 私は気にしていないわと、そんな顔を見せながらも彼が来てくれた時は精一杯持て成した。

 得意な料理で、手間をかけ、贅を尽くし、彼のために必死だった。

 おいしいと、そう目を細める彼の顔が見たくて、彼の訪れを待つ間も彼の居心地が良いように部屋を整え待っていた。


 だんだんと、彼の好みを把握し料理の品数も増え、二人きりで過ごす時間も増え、そして、彼は私の手料理を求めて毎日来てくれるようになった。


 幸せだった。


 初めて彼と夜を共にした日、私は彼女たちに勝ったのだと確信した。



「ハル君、おいしい?」


 今日も彼は目を細めておいしいと言ってくれる。


 気分が良い、最高だった。ハルは彼女たちより私を選んでくれたのだから。

 年増だと見下していた同棲していた一番若い彼女よりも、身体を張って気を引く彼女よりも、癒しを与える彼女よりも、彼の胃袋を掴んだ私が勝ったのだから!



 なのに、そんな幸せはすぐに、実にあっけなく崩れた。



「見て、チヅル。トモカとハル君やっぱりお似合いでしょ?」


 ハル君と暮らし始めたことを知った友人が、連れてきたのは愛娘のトモカ。


「ハル君ならうちのトモカと仲良くなれると思ったのよねぇ」


 ハル君の容姿に惹かれた彼女は、私より、自分の娘に相応しいと、そう考えたのだ。


「驚いたわー、ねぇ、初めて会った時、お互い一目ぼれって感じだったわよね?」


 ハル君はトモカちゃんを一目で気に入った。


 ……ハル君は私のなのに。


「あ、ほら見て、ハル君から甘えてる!」


 ……私は彼のために必死に努力したのに。


「お似合いよね?」

「っ!!」


 限界だった!


 テラスで寄り添い、トモカちゃんの耳元で何か囁くようなハル君の姿に、我慢できなかった。


 ハル君は私のなのよ!! 私だけを見てよ!!


 そんな思いが溢れ、声を上げてしまった。



「ハル君!」


 彼はゆっくり振り向く。


「ごはんよ!」




「にゃん!!」





 ハル君はトモカちゃんを残し私の元へ駆けてきてくれた。


 彼を抱き上げ、呆然としたトモカちゃんへ視線を移す。



 ふふ、ね? 彼が愛しているのは私なのよ?



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うわき? ひろか @hirokinoko

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