後編
宝物探しが中止されるまで見つからなかった人は私と、学級委員長の田辺君と、クラスのリーダー格の高橋君の三人だけだった。
とりあえず私達三人が同率一位ということになって宝物探しは終わった。校長先生からの指示で、宝物は持ち主に返されることとなった。何だか煮え切らない気持ちだったが、一応優勝者としての称号として先生から人気アニメのキャラクター缶バッジを貰った。少しだけ誇らしい気持ちになって、私は缶バッジを胸元につけて1日過ごした。
放課後、私は田辺駅と高橋君と三人で帰った。同じ優勝者として不思議と連帯感が生まれたからなのか、今までほとんど話したことがなかった三人なのに、一気に仲良くなったのだった。
「ところでさ、二人はあの池の中とか探した?」
田辺君と高橋君は私の問いかけに二人して顔をしかめた。
「あの池には誰も近付かねえよ」
高橋君が意味ありげなことを言う。その目にはどこか面白がっているような好奇の色があった。
「どうゆうこと?」
「金井は聞いたことねえのかよ。蛇の話」
「蛇?」
「あの池には、蛇の怨霊が出るって都市伝説があるんだよ。近付いたら、巻き付かれて呪われるって話だ」
「え!」
私は思わず大声をだした。二人がびっくりして立ち止まった。
「何だよ、そんな大声出してさ」
「だって僕、その蛇に巻き付かれたんだ!」
すると今まで黙って話を聞いていた田辺君が笑いながら口を開いた。
「金井君も変な冗談はやめなよ。蛇の怨霊なんてただの嘘だよ。昔さ、あの池での傍で蛇の死骸が見つかって大騒ぎになったんだよ。だからそんな変な噂が立っただけだよ」
「いや、田辺君、この腕のアザを見てよ! 本当に巻き付かれたんだって!」
腕を見せると二人はきょとんとした顔で首を傾げた。
「確かにアザっぽく赤くなってるけど、薄くてよく分かんねえな」
「うん、若干赤くなってるけど、これが蛇に巻き付かれた跡だなんて信じらんないな」
私は無性に腹立たしい気持ちになった。どうして二人は信じてくれないのだろう。あれは紛れもない事実なのに。
「赤くてぬるぬるした細長いのが池にいたんだって!」
「ははは! それさ、宝物のリボンだったんじゃねえの?」
「違うよ! 動いてたもん!」
すると田辺君が私と高橋君の間に入って言った。
「じゃあさ、一旦学校戻ろうよ。本当に、蛇がいるのか確認しに行こう」
その一言で、私達は学校に戻ることとなった。三人とも言葉少なく、池にゆっくりと向かう。池が見えてきて、三人とも歩幅が小さくなり、立ち止まった。
「金井が先行けよ。お前が言い出したんだから」
「分かった」
高橋君に背中を押されて、私は池に近付いていき、覗き込んだ。しかし赤いものは何処にもいなかった。
「いないなあ」
「ほら、やっぱ嘘だったんだ」
「だから違うって! 田辺君は何ですぐそうやって嘘だって決めつけるんだよ」
「嘘っぽいもん」
「うーん……まあそうなんだけどさ。信じてくれよ……」
「じゃあぐるっと校舎の周り、探してみるか。お前ら二人、どうせ暇だろ?」
高橋君のリーダーシップで、私達三人は蛇探しをすることとなった。
「見た目はね、赤くて長いヒモだよ。確かに、あのリボンみたく見えるかも」
「赤い蛇ね。まあでも、そんなのいたらすぐ見つかりそうだな」
池の周りの雑木林、鶏小屋の中、体育館の周り、とにかく私達はくまなく探して回った。しかし何処にも赤い蛇はいなかった。
遊具の立ち並ぶ場所に来たとき、突然、高橋君が叫んだ。
「いた! 蛇だ!」
高橋君は鉄棒を指差して走り出していた。少し遅れて田辺君も鉄棒に向かって走り出した。
「あ! それは……」
私は少し恥ずかしい気持ちになりながら二人の後を小走りでついていく。
「なんだあ……リボンじゃん」
「やっぱ赤い蛇なんていないよ……」
高橋君と田辺君は意気消沈しているようだった。あのリボンは私がくくりつけたまま、回収し忘れたものだった。
「というか何でこんな所にリボンがくっついてんだ?」
「ああ、鉄棒が宝物ってことじゃないの?」
二人は同時に私の顔を振り返った。
「そうだよ。それは僕のつけたリボンだよ」
「お前、これ卑怯だろ! こんなの分かるわけねえじゃん!」
「でも先生はオッケーって言ってくれたもん」
それから五分くらい、蛇探しに飽きた私達は鉄棒の周りで立ち話をした後、帰ろうということになった。結局その日は赤い蛇は見つからなかった。
帰宅後、湯船に浸かっていると、腕がみしみしと痛みだした。
「ん?」
私はアザのある右腕を湯船から出した。さっきまで薄くなっていた蛇腹のアザが、その色を濃くして、まるで鬱血しているかのようにどす黒くなって浮かび上がっていた。アザはぶくぶくと膨らみだし、私の腕の中で暴れているようだった。私はあまりの恐怖で声が出ず、大慌てで風呂から出ようとして足を滑らした。浴槽の縁に強く頭を打ち、そのまま湯船の中に頭から沈みこんだ。意識を失いそうになりながらも、必死にもがいていると、何処から湧いて出たのか、あの赤い蛇が浴槽の中を泳いでいるのが見えた。蛇が私の首元に近付いていきたので、私は蛇に勢いよく噛みついた。
「殺してやる! 殺してやる!」
私は溺れながら、叫んでいた。口の中に血液がぶわっと溢れたのが分かった。真っ赤に染まった浴槽の中で、私は我に返って立ち上がった。全身に、真っ赤な血を滴らせながら、私は乱れた呼吸を必死に整えようと深呼吸した。
ふと、風呂場の鏡に写った自分を見ると、そこには鬼がいた。真っ赤な体に、牙を剥き出した、恐ろしい鬼だ。その右手には、頭のちぎれた蛇の死骸が握られているのだった。
宝物探し 仲蔵 @nakazou0526
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます